デイドリーム



プレゼント

1年で1、2を争うくらい学校が騒がしい日。
7月15日、新開の誕生日。
今日と同じくらい騒がしい日は、きっと東堂の誕生日くらいだろう。

いや、バレンタインのほうがもっと騒がしいか。
その二人に女子が群がるのだから。

朝からひっきりなしに新開のもとに訪れる女子。

「新開くん、これ受け取ってくださいっ!」

「ああ、ありがとな」

新開は嫌な顔一つせず、プレゼントを受け取っている。

「あの…、新開先輩。…これ」

「サンキュー」

次々とやってくる女子とプレゼント。
受け取っては段ボールに入れられていく。

いくら優しい新開と言えど、すべてのプレゼントをカバンに入れることなど無理なので、段ボールに入れるしかない。
わたしはその段ボールを見ていると、自分のカバンの奥に入れてきたプレゼントを渡す勇気がどんどんなくなっていった。

チャイムが鳴って新開の周りから人がようやくいなくなったときに、

「はぁ、こんなにもらっても困るだけなんだけどな…」

独り言で新開がボソッと言った。

「もてる男はつらいね。でも、他の子からしたら嫌味だよ」

「ハハ、聞かれちまったか。悪いとは思うんだけどね、欲しいものをもらっているわけでもないし、正直、困るものもいっぱいあってさ…」

う…、痛いところを突かれた。
そうだよね、欲しいものをもらうわけじゃないもんね。

自分が用意したプレゼントなど、「いらない」と言われている気分だ。

何が欲しいか聞けばよかったのかな…。
でも、驚かせたかったし、聞く勇気も出なかった。

「受け取ったプレゼントにはみんな気持ちが込められてるんだからさ、そこんとこわかってあげなよ」

「うーん、でも話したことないような子もいっぱいいたし、俺のことそんなに好きじゃなくても渡す子もいるかもだろ」

「きっとそんなことないよ。みんな真剣なんだから。うれしくないの?モテてる証拠じゃない」

「…好きじゃない子からいくらもらっても、迷惑なだけだからさ。好きな子からもらえなかったら、モテたって意味ないだろ」

新開はちょっと不満そうに言った。
わたしは新開の不満そうな顔が気になったが、それよりも好きな子というフレーズに思考が停止した。

好きな子いるんだ…。
自分が用意したプレゼントなど迷惑でしかないという事実にショックを受け、苛立ちを覚えて少し嫌味を言いたくなる。

「東堂だったら、ファンの子たちをいつも盛り上げるようなこと言うのに」

「オレは東堂じゃないからな。そんなに寛大にはできないさ」

普段は優しい笑顔で、怒ることなどほとんどない新開が、むっとした表情で言った。
ヤバ、怒らせたかも。

あー、バカ。
なんであんなこというんだ、わたし。

自己嫌悪に陥っていたら、チャイムが鳴ったので自分の席に戻った。

***
HRが終わって、部活へ行く者、帰る者、一人二人と教室から人が減っていった。
今日は部活がないので帰る用意をしていた時に、カバンの中のプレゼントの袋が目に入った。

結局渡せなかったプレゼント。
新開に好きな人がいるという事実と一緒に、わたしの心にずんとのしかかる。

あぁ…、サイアクな日だ。
教室を出ようとしたときに、不意に声をかけられた。

「高篠!」

今、一番聞きたくない人の声。
いつもならさっさと部活に行く新開が、なぜかまだ教室に残っていて、わたしのことを呼んでいる。

うぅぅぅ…
今日はそっとしておいてほしい…。
明日からは普通にするけど、今日はもう帰りたい…。

それでも無視するわけにはいかないので、返事をする。

「…なに?」

「おめさんから、祝ってもらってないな、と思って」

「…好きな子以外から祝ってもらっても迷惑なんじゃないの」

あー、わたしのバカ。
かわいくない返事。
こんなことばっか言ってるから、わたしはダメなんだ。

「クラスメイトとか、友達とかは祝ってもらってうれしいさ。だから、おめさんにも祝ってほしいんだ」

さすがにここまで言われて何もしなかったら、ひどい奴だろう。
そう思いなおして、素直に彼を祝うことにした。

「そうだね。…新開、誕生日、おめでとう」

「…ひとつお願いしても構わないか?」

「?お願い?」

「そのまま、じっとして」

そう言って新開はわたしにそっと近づいてきた。
思わずのけぞって後ずさりしたくなったけど、新開に「じっとして」って言われたから、ガマンする。

新開の腕がすっぽりとわたしを包み込み、

ぎゅっ

顔が新開の胸元に押し付けられる。

…これ、
え…?

「本当は高篠からハグしてほしかったんだけど、…な」

…!
もしかして…?

いや、もしかしてじゃないかも。

ここまでされて、すっとぼけていたら女が廃るよね。
今朝吹き飛んでしまった、勇気を引っ張り出してきて、思いっきり新開を抱きしめ返した。

「…!」

驚いた新開は、思わず私の身体を離して、じっと私の目を見つめる。

「ハグしてほしいなら、する。…っていうか、わたしからハグしたい。…させて?」

「…ほんとうか?…うれしいな」

そう言って新開は笑顔で両手を広げた。
わたしはその胸に飛び込み、彼の背中に腕を回す。

新開も飛び込んできた私の身体を受け止め、わたしの身体に腕をギュッとまわした。

「…今日、おめさんから何ももらえなくて、すげーショックだったんだ」

耳元で新開が言った。
耳元がくすぐったい。

「…わたしも、新開が好きな子からもらえないなら迷惑でしかない、って聞いてショックだった」

「おめさんからもらってないんだから、ああいうしかなかっただろ?」

「…そうなんだけど。あー、好きな子いるんだ、って…」

「なぁ、プレゼント、あったらくれよ。おめさんからのが欲しい。…沙羅のだけ欲しいんだ」

「…わたしの気持ちと一緒に受け取って」

朝は何でもって来たんだろうと、後悔したプレゼント。
今は、こんなにもうれしい気持ちで渡せる。

***
手を繋いで帰る、帰り道。
新開がわたしに耳元でささやく。

「バレンタインは、おめさんを全部ほしいな」

わたしに指を向けて、バキューンとするポーズ。
きっと、バレンタインにはわたしはぱっくりと食べられてしまうのだろう。


プレセント/fin.

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