デイドリーム



満員電車

満員電車、サイアク…。

いつも満員電車に乗るのが嫌で、少し早めの時間に出ているわたし。
今日に限ってアラームをかけ忘れて超満員の電車に乗る羽目になってしまった。

「うぅ…、こんなに混んでるなんて死にそう…」

いつもと30分程度違うだけで、ホームからの人のあふれ方がえぐい。きっと一本見送ったところで変わらないのだろう。

ふぅ…、と息を吐き出して電車に乗り込む覚悟をする。

「お、高篠、めずらしいな。この時間なんて」
「荒北」

声の方向を見ると、知った顔が見える。

「混んでるのが嫌で、いつも早い時間に乗るんだけど。今日は時間間違えて、ね」
「どうりでいつも見ねーわけだ」
「荒北はいつもこの時間?」
「ああ、だいたい」
「よくこの満員電車に乗れるねぇ…」
「ははっ、もう慣れちまったからな」

わたしにとっては朝からの憂鬱な電車だったけど、荒北にとってはそうでもないらしい。

荒北とは入社してから同じ部署で、割とよく話すほうだ。
目つきは悪いが根はいいやつで、気の置けない男友達といった感じだろうか。

「満員電車って、息苦しいじゃない。全部壁に囲まれてる感じだし…」
「高篠ちいせぇからな」
「…荒北くらい身長あったら、そこまで苦しくないのかもしれないけどさ…」
「そんなふくれっ面すんなよ。…電車きたし、乗んぞ」

前の人について足を動かせば、後ろからの波に押されるように電車になだれ込む。

「おい、大丈夫か?」
「…あんまり」

ぎゅうぎゅうの車内では身動き一つとれず、そして予期せず荒北と向かい合わせでぴったりとくっつく羽目になった。
細く見えるのに、意外と筋肉質で細マッチョな体に自分の体が押し付けられて、妙に恥ずかしい。
わたしはつり革など持つこともできないが、荒北は悠々とつり革のついた棒を握っている。

扉が閉まります、とアナウンスが流れ、電車が走り出す。
カーブが来るたび、人が大きく揺れ、わたしの体もバランスをうまく取れない。

「きゃ…」
「…っと、あぶねーぞ」

片足がうまく地面についていないせいで、バランスが取れずにこけそうになったわたしの腰をグイッと片手で荒北が支える。
さっきよりも、体が密着して、荒北に抱きしめられる格好になったわたし。

「…ワリィ。あぶねーからこのままじっとしてろよ」
「え、あ、…ハイ…」

ふわりと香る柔軟剤に混じった荒北の匂いになぜかドキドキしながら、早く目的の駅についてほしいような、このままこの状態が長く続いてほしいような。
くすぐったくなる気持ちいっぱいで、荒北の体温だけを感じていた。





「…はぁ、やっとついた…」

酸素の少ない車内からでて、ようやく息を吸える状態になったのと、荒北に密着してドキドキしていたのから解放されて、思わず出てしまった言葉だった。

ものすごく混んでてしんどかったけど、なんとなく手放すのが惜しい、荒北との時間。
これは、いったい何だろう…?

「お前、一人で満員電車乗んなよ。ちっせーからヨ」
「ちっさいちっさい言うな!一番私が知ってる!」
「ちっさくって腰も細いけど、意外と触り心地はよかったヨ」

荒北の爆弾発言に、わたしの顔はボン!と爆発しそうなほど真っ赤に火照ってしまった。

「な、な、なに…その発言!…セ、セクハラだからー!!」
「俺がいないときは満員電車禁止だからな」




◇◇◇

「それって、どういう意味…?」
「…改めて、それ聞くゥ?」
「はっきり言ってくれないと、わかんない」
「チッ、………好きなんだよ、お前が」




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