【煌双】太ももに顔を挟まないと出られない部屋

「――丁か半か。お前はどっちにする?」
「え、えっと……」
文机しかない真っ白な部屋。なぜこんなところで煌牙さんと勝負をしているのかと言うと――。

「こ、煌牙さん、これ……!」
文机の上に置いてあった、部屋を出るための条件が書かれた紙を、煌牙さんに手渡す。煌牙さんはそれを受け取ると、驚いた様子で目を開き、ため息をついた。
「……あいつの仕業か」
「あいつ? 誰かのいたずらなら……」
この条件を満たさなくても出られるかもと思い、煌牙さんを見つめる。しかし煌牙さんは、そんなわたしを見ると、何も言わずにすっと目を細めた。
「……いや、この条件は本物だ」
「え? でも……」
「悪ぃ、双葉。ちょっとそこに座ってくれ。で、俺がそこに……」
「ま、待ってください! わ、わたしの……ふ、太ももにするんですか?」
思わず声を上げると、煌牙さんは悪戯っぽく笑う。
「おいおい、お前が俺のに挟まるつもりだったのか? へえ、お前意外と……」
「ち、違います! いや、違わないですけど! これ、されるほうが恥ずかしいのでずるいです!」
わたしは腰を下ろし、すぐ隣をぽんぽんと叩く。
「煌牙さんも座ってください。話し合って決めましょう」
「いや……それなら、もっと早ぇ方法がある」
煌牙さんはそう言うと、懐から二つの賽を出したのだった。
賽を高く放り投げ、慣れた様子でパシッとそれを掴む。
「丁か半か。お前はどっちにする?」
「え、えっと……」
見えるわけがないのに煌牙さんの大きな手をじっと見て、賽の目を予想する。
「は……半で!」
「お前は半な。じゃあ、俺は丁で」
そう言うと、煌牙さんはにやりとし、ゆっくりと手を開く。そこにのっていたのは――。
「二と三……半だな。お前の勝ちだ」
「っ!」
煌牙さんは、仕方ないといった様子で脚を伸ばす。
「ほら、これでいいか?」
「はい。し、失礼します!」
仰向けになり、さっそく煌牙さんの脚の間に横になった。
「……どうだ?」
わたしの顔を覗き込む煌牙さんと目が合う。鍛えられた脚の感触と、冷静になって自分は何をしているんだという恥ずかしさから、かっと顔が熱くなる。
「あ、あんまり見ないでくださいよ……」
思わず目を逸らすと、煌牙さんが無理やり目を合わせてくる。
「なんだよ。聞こえねえな」
にやりとした煌牙さんの顔を見て、意地悪をされてることに気づく。たまに藤一郎さんみたいになるんだよなぁと思いながら、わたしは目を閉じた。
「へ、部屋が開いたら教えてください……」
――心を無に。わたしは寝ているだけ。そう言い聞かせながら、部屋が開くのを待つ。しかししばらくして、温かい手がそっとわたしの頬に触れた。
「……っ」
思わず目を開くと、煌牙さんがじっとわたしの顔を見つめている。
「煌牙さん?」
煌牙さんの温かい手が心地よくて、でもどきどきして。やがてその手は頬から離れると、わたしの髪を掬い上げた。
「……綺麗な髪だな」
ちゅっと音を立て、煌牙さんがわたしの髪に口付ける。途端に顔が熱くなり、心臓の音が大きくなった。
「こ、煌牙さん!」
「ん、どうした?」
相変わらず悪戯っぽく笑う彼に落ち着かない。わたしは両手を伸ばすと、煌牙さんの頬にそっと触れた。
「煌牙さんばっかり、ずるいので」
……わたしだって触れたい。そんな思いで煌牙さんを見つめる。そんなわたしに、煌牙さんは機嫌よさそうに笑うと、小さく呟いた。
「……たまにはあいつに騙されてやるのも悪くないか」
煌牙さんはそう呟くと、見知ったた文字で書かれたその紙を、懐にしまったのだった。




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