直哉が気に入りの女中にピアスを開ける話

・攻め解釈のクズ直哉



──呪術界における御三家の一つ、禪院家。私はそこで女中をしていた。ここにはたくさんの優秀な呪術師がいて、私も広くお世話をしている。中でも、禪院直哉様は次期当主となられる予定のお方で、私も呼ばれた際には失礼のないよう細心の注意を払っていた。
「あなた、大丈夫?」
庭仕事をした後、次の仕事のため長廊下を歩いていると、すれ違いざまに先輩の女中に声をかけられた。こそこそと話しかけてきた彼女に、何だろうと思って私も小声で尋ねる。
「お疲れ様です。あの、何のことでしょうか?」
「あら、まだ聞いてないのね。あなた直哉様のお気に入りだから、変に揉めないといいけれど」
「揉める?」
思わず首を傾げる。彼女はそれに答えようと口を開いたものの、急にはっとすると頭を下げて踵を返した。その視線の先を追うように、私も振り返る。そこには、直哉様のお兄様にあたる方が立っていた。
「ナマエ、来い」
禪院家は呪術師という職業柄か、御三家という立ち位置のせいか、理不尽なことばかりおっしゃる方や気難しい方、つまり性格に難がある方が多い。直哉様なんてその最たるものだ。でも、お兄様の彼は比較的会話ができる方なので、声をかけてきたのが彼で少しだけ安心してしまった。
「はい、ただいま」
会釈をして、彼の後をついていく。私が彼の部屋に入るのを物陰からじっと見つめる視線に、この時の私は気づいていなかった。


「ナマエちゃん、ちょっと来てくれへん?」
その日の夜、台所を片付けていると、直哉様に声をかけられた。
「はい、今参ります」
慌ててそう答えると、洗い物の手を止め、台所を出る。
夜中とは言え、やけに周りが静かだった。不思議に思いながらも、大人しく直哉様の後をついていく。
「入って」
自室の障子を開けると、彼はにこにことしながら私を見つめた。訝しみながらも、それを拒否するわけにはいかない。
「失礼いたします」
「そこ、座ってや」
部屋の中心を指さされ、静かに腰を下ろす。直哉様は、向かい合うように胡座をかくと、戸惑っている私の顔を覗き込んだ。
「聞きたいんやけど、今日昼間、兄さんの部屋に呼ばれてたやろ。何しとったん?」
「それは……」
思わず目を伏せる。
実は直哉様のお兄様に、来月からお兄様の専属の女中になるように言われていた。給金も多少は上がるみたいだし、特に断る理由は思いつかず、また断れる身分でもないのでそれを受け入れた。ただ、直哉様にはこのことは言わないようにと、念を押されていたのだ。
「……私からは、申し上げられません」
「は?俺がナマエちゃんに聞いとるんやけど」
苛立った様子でそう言うと、彼はこちらに手を伸ばす。そして、私の腕をひねり上げるように乱暴に掴んだ。
「いっ……!」
思わず声を漏らす。はっとして彼の方を見るけれど、直哉様は特にそれを気にした様子もなく、笑いながら私の手を強く自分の方に引き寄せた。
「あー、堪忍な。女なんて雑にしか扱ったことあらへんから、力加減わからんくて」
そう呟くと、腕を掴む手にさらに力を入れる。
「っ……」
「あんな、俺もナマエちゃんにこんなことしたないねん。気づいとるかわからへんけど、結構気に入っとるんよ。せやから、はよ吐いてくれへんかなぁ」
きりきりと腕が痛む。彼の指が皮膚に食い込み、赤黒く染まっていた。指先の感覚はない。血が行き届かないのか、掴まれているところから下は真っ白になって、血の気が引いていた。痛みに声が出そうになるのを、必死に抑える。
「っ、も、申し訳ありません、でも、口止めされておりますので……っ」
「はぁー、あかんわぁ。俺、次期当主やで?兄さんよりも俺が言うことのが上やってこと、わからへんかな。ナマエちゃんも女中さんなんやから、いちばん機嫌とらなあかんのは誰なのか、ちゃあんと判断できるようにならんと」
そう言うと、彼は突然ぱっと手を離した。勢いよく落ちた私の腕には、しっかりと彼の指の跡がついている。血が戻った手が、どくんどくんと脈打つのがわかった。
「あれやろ、兄さんの専属にならんかって言われたんやろ」
そう言うと、俯く私に顔を寄せる。
「その意味、教えたろか」
次の瞬間、突然肩を掴まれたかと思うと、無理矢理その場に押し倒された。そのまま慣れた様子で私を組み敷くと、その衿を乱暴に掴む。そして、それをぐいっと肩まで押し下げた。乱れた胸元から、自分の下着が露わになっているのがわかり、顔が熱くなる。
「兄さん、これ説明しなかったやろ。やらしいわぁ。これ言うたら、ナマエちゃんに断られると思うたんかな。はっ、ダサ」
そう鼻で笑うと、怯える私を面白がるように見つめる。
「なあ、ナマエちゃんは俺に抱かれんのと、兄さんに抱かれんの、どっちがええ?」
そう言いながら、彼は大きな手で私の首元を撫でていく。
「わ……私が決められることでは……」
「あ?せやから、お前に聞いとんねん。はよ答えろや、カス」
肌をなぞる彼の手に、ぐっと力が入ったのがわかった。ごくりと息を呑んで、掠れた声で答える。
「な……直哉様、です」
「せやろなぁ。俺選んで正解や。やっぱナマエちゃんは賢いなぁ。そういうとこ、気に入っとるんやで。あと顔な」
機嫌よさそうにそう笑うと、彼は私のお腹の上に跨るようにして、私の体の自由を奪った。そしてそのまま手を伸ばすと、私の髪をかき分け、おもむろに耳に触れる。
「ちっさい耳」
そう呟き、辺りを見回していたかと思うと彼の視線が止まる。
「せや、ここに置いたんやった」
彼が書斎机に手を伸ばすと、その手には安全ピンが握られていた。それを見て、これからされることを想像してしまい、びくりと体が揺れる。
「ちょっとだけ我慢やで」
そう言って、彼は思っていた通り私の耳たぶを掴むと、容赦なくそのピンをそこに刺した。肉を裂く鋭い痛みが走り、声を上げそうになるのを我慢する。
「へえ、肝据わっとるなぁ。えらいえらい。泣き叫ぶかと思って人払いしとったけど、いらんかったな」
唇を噛んで耐えていた私にそう微笑むと、彼は自分のピアスを一つ外した。そして、それを開けたばかりの私の穴にねじ入れる。安全ピンで開けた小さな穴が、ピアスによって無理矢理押し広げられて、鈍い痛みともに血が流れるのがわかった。
「これあげるわ。これで兄さんも、ナマエちゃんは俺のやってわかるやろ」
そう言うと、涙目の私を見下ろして、彼は満足そうに目を細めた。
「よかったなぁ、ナマエちゃん。さ、兄さんにこのこと説明しに行こか。ナマエちゃんは俺の専属になるから、違う女探せって言うてやらんとなぁ」
それに答えられないでいると、直哉様は今穴を開けたばかりの私の耳に顔を寄せる。
「ナマエちゃん、お返事できんの?」
「っ、は、はい……」
「うん、ええ子やね」
まだ止まらない血を、彼の舌がべろりと舐りとる。じくじくと耳と腕が痛むのを感じながら、私は直哉様の言う通りにするしかないのだった。




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