揺れるゆれる 1

 春、という季節はどこか人の気分を上向けると私は十七年過ごしてきてそう思う。それは、いやなことはたくさんあったりもする。クラス替えで仲のいい友人と分かれてしまったり、今年なんかは受験なども控えていたりして。けれども私は春はきらいじゃない。
 何かいいこと、ありそうな気がするじゃない?
 新しい友人が見つかったり、素敵な先生が担任になったり……。
 かわいい子をさ、見つけたりもできる。
 というのも私は自慢ではないけれど中学から高校にかけてまで自転車通学なのである。……格別声を大きくして言うことでもないけど、この脚力にかけて右に出るものはいない、と言いたいまでに遠いところからバスも使わず毎日、自転車に跨っては道を走るのだ。
 そんな私だったのだけれど。高校三年生のこの春になって、少しの変化が起きた。というのも、あるコンビニを境にした小さな交差点にて、毎朝のように見る顔が出来た。明らかにまだまだ幼い雰囲気を残している辺り、今年高校に上がった子だろう。きれいなボブヘアーを揺らしたその子は女の子だ。
 私とは反対の道を行くため、すれ違うほんの一瞬や交差点での待ち時間。私はじっとその子を見つめては話しかけるきっかけを窺っていた。
 私はいわゆる、女の子が好き、なのだ。子どもの頃からそれは変わらず、誰にも言ったことはないけれど密かに片想いしていたことも星の数ほどある。まあ、私が言わなければ失恋もしないで片想いで終わるのは当たり前なんだけれど。
 言う勇気なんて、どこにもない。
 ただただ、いつも好きになるだけ好きになって自分の心がその子のことを好きなのを飽きるのを待って恋愛はそこで終了。そしてまた新しい女の子を好きになる。いつだってそれの繰り返し。それが私の恋愛方法だった。
 けれど……そのままでいいのかな、とここのところ思い始めてきてしまっている。
 一年待てば卒業で、それから先は自由の身で女同士の恋愛が楽しめるというのに私の心は窮屈さを感じ始めていた。その矢先に今、目の前にいるボブヘアーの彼女と出会ってしまったのだ。
 小さな顔の中には大きな目と、小さな鼻とそして桜貝みたいな淡い色の唇を持った女の子。私の心を掴むには充分すぎる内容の子だった。
 そして何よりも、彼女も私を見ているのだ。じっと、小鳥が枝にとまり興味深げに身を乗り出すようにして私を見ている。
 勘違い、してしまいそう。
 出会ったその日、彼女が入学してそして私も始業式が始まったその朝。初めて彼女と顔を合わせ、信号が赤だったので私たちは互いの進行方向を見ながら、顔合わせをした。
 それが始まり。惚れっぽい私はすぐに彼女に惹かれ、毎朝を楽しみにするようになった。変化の無い自転車通学に華が出来た。
 しかし彼女はどうなのだろう。私は気になっているから見るけれど、彼女はどうして私をじっと見るのだろう。決して気のせいではなく、彼女と目が合っている。そして無言ですれ違い、それぞれの学校へと辿り着いている。
 それが私と彼女の毎日だ。
 挨拶を、というのがまず私の考えた第一の一歩だった。挨拶ならば不自然でもなんでもない。ただ「おはよう」ってその一言だけでも交わせれば嬉しいって思うだけ。……だけで済むのかな。きっと私のことだ。その先が欲しくなるんだろうけれどとりあえずきっかけ作りは大事だと思う。
 本当に、あと一年経てば女同士の恋愛が普通に出来る、そんな場所に行けるのに。私は一体どうしてこんなに真剣になっているんだろう。
 恋愛はどうしようもなくいつも不毛だ。
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