囚われの蝶[2] たった一時の逃走劇かと思われた。すぐに連れ戻されるものと覚悟していた。 しかし… 迎えが来たのはそれから一年後だった…。 「俺があの場所に居る事は、既に承知の事だったのに。何故すぐに迎えに来なかったのですか?」 「…おや?迎えに来て欲しかったのかい?」 「……べつに。そういう事を言っているわけではないです」 「ふふ…可愛い子には旅をさせろと言うじゃないか」 「…は?」 「外の世界に興味を持つのは良いことだと。そう言っているんですよ」 「…」 「楽しかったでしょう?我々の管理が届かない場所で過ごすのは」 「…」 「一年毎に顔を見に行っていたのは、せめてもの愛情表現です」 「…連れて帰る気など無かったと、そう言いたいんですか」 「そうですねぇ…帰りたくないのなら、それはそれで仕方ないと思っていましたよ。しかし、期限はこちらで決めていました。だから今日なのです」 「……構いません。その気になればいつでも出ますから」 「おやおや、随分生意気になりましたね。ふふふ」 迎えが来るたび、彼は逃げた。 施設という施設を渡り歩いた。 だが彰の里親は、怪しげな商売を生業とする裏社会の人間。その包囲網は広い。 幼い彼が気づかぬうちにどんな手を打っているか定かではなかった。 しかも彼はまだ義務教育の真っ只中。 親権が里親の元にある以上、居場所など簡単に割り出せてしまえるような子供であった。 覚悟はしていたのに、無理矢理連れ戻されない現実は彼を戸惑わせてもいたのだ。 「そういえば、何か新しい事を始めたようですね」 「…はい」 「それは楽しいですか?」 「…はい。少しは男らしくなれる気がするので」 「そうですか」 指摘されたのは、彰の荷物からはみ出していたドラムスティック。 さすがにそれ以上を手に入れる力などこの時の彼には無かったが、憧れた目標に向かって着実に歩みを進めている証拠であった。 車は家路をひた走る。 この後、彰を待ち構えているのは、密かに準備されてきた計画の実行。 最早、逃げ場など用意されてはいなかった…。 en aparte'*top← +α← Home← |