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1.焦がれる
2013/05/18 02:52

幼馴染み設定って何よ!という方はこちら





悲劇の夜に生じた憎悪は、数年経とうとも消えることはない。
数年を経た今でも渦巻く憎しみは千年輪に宿り、所有者を蝕ばまんと牙をむいている。特にその日が近づくにつれてより一層、亡者の声は所有者に叩きつけられていた。それは悲劇が起こった日より数日前から始まり、だんだんとその夜が近づくにつれて強くなっていた。
頭の中で凶暴に暴れる恨みの声音は、凶器で殴られていると錯覚してしまうような痛みを所有者に伴わせる。それに耐えるため、意味はないと分かってはいるものの壁に寄りかかりながら座り込み、両手で耳を強く握り締めるかのように塞いで唇が切れるのも構わずに強く噛む。声を押し殺し、唇から漏れるのは荒い呼吸を繰り返す音だけだった。
当然こんな状態が続いてるのでは眠れるわけもなく、近頃の睡眠不足を訴える身体で気が狂いそうな中、ただ耐えることしかできなかった。

ー闇に飲まれるわけにはいかない

一心不乱にそれだけは避けなければ、と正気を保ちつつ闇に身を委ねてはいけないと念じ続ける。先代の千年輪所有者はこの千年輪の闇に飲まれたらしく、この闇は所有者を蝕ばわんとする声音がどの千年宝物よりも強かった。それは千年輪が人間の心や念を封じ込める能力を持つゆえだろう。何にしても六神官であった先代が押し負ける程の威力は馬鹿にならない。
朝が来れば、この日を乗り越えれば、この拷問のような悪夢は終わる。そしてそれまで耐えれば来年まではこの呪詛の声は止むのだ。しかしこれを先代も耐えていたのかと思うと、いっそ飲まれても仕方ないと思えてきてしまう。身体的にも精神的にも、これほどの疲労を重ねることはなかなかない。
しかしそうは思っていても、この耐え難い痛みにこれだけでは耐えられるはずもなく、痛みを逃すために壁を思い切り拳で叩いたり、身体を思いっきり壁に叩きつけたりして他の痛みで気を紛らわせようとしても、ほとんど意味はなかった。
「私、には……む、り……なん、だ……」
今もなお、王家に復讐を望む憎悪の声に対して踞りながらマハードは呟く。今となっては愛しい子たちや仲間をこの手にかけるなど、マハードには到底できそうになかった。自分を師と慕ってくれるマナや、昔から共にいたアテムといった愛しい子たちを殺し、何かと可愛がり父代わりをしてくれたアクナディンに復讐をするなど、どんなに盗賊村の怨霊たちに呪いのような言葉で囁かれてもできそうにない。盗賊村の人々を、父を、母を殺された恨みを振りかざして王やアクナディンたちに復讐するには、あまりにも多くの愛情を与えられたマハードにできるはずもなかった。
「   」
小さく呟いた声は誰にも届くことはなく、マハードはただ銀の髪を思わせる白銀の月光に焦がれることしかできなかった。
▼追記
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