俺は名前がトイレに向かった後、
暇だったので柳に少し話を聞かせてくれないかと頼んでみた。
すると柳は「あぁ、この開いた時間で大まかなことを話すとしよう」と快くOKしてくれた。




「2年B組の古見れいさという女子生徒が昼休み終盤頃に女子トイレで行方不明になったのは知ってるな?」
「あぁ、つい先ほどまで噂だったしな」



ジャッカルがいうとおり、本来なら6時間授業で部活ありという普通日課だったのにもかかわらず、
5時間目が始まってすぐに「今日は5時間で終わり、部活もなし」と急に伝えられたのだ。
それほどの事件が普通に噂にならないほうがおかしい。

だから多分立海の生徒ならば殆どが知ってる事だろう。




「その事件なんだが、俺でも殆どよくわからないんだ」
「え?」
「行方不明になった女子生徒の詳しい事がまったく分からない」



誰に聞いてもよくは知らないと、誕生日はおろか血液型まで、家族構成も住所も何も。
彼女はどれだけ親しい友人にさえもあまり教えてくれなかったらしい。

先生に聞く、という手もあったが今の状況じゃ無理だろう。
そういって柳はノートをスッと静かにたたんだ。



「・・・なんか彼女、自分が消えることを分かってたみたいだね」


俺は思わず、スルリと出てきてしまった言葉を止めることなく言った。
その言葉に真田や柳が「幸村?」と反応してきたけどそのまま俺は思ったことを続けた。

だって、誕生日も家族構成も、住所も何も知らない人が消えたら
残るのは名前と性別ぐらいじゃないか。

そんなの、居たことになるのだろうか?
そんなの、一緒に過ごした事になるのだろうか?
そんなの、・・・記憶に居続けることはできるのだろうか?



「もし、彼女が自分が消える事を分かって過ごしてたんだったら」


あまりにも、残酷な人生だったのかもしれないね。

(矛盾に気づいて)

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