「〜♪」

「おや、ご機嫌ですねナマエ。何かあったのですか?」

「ふふふ〜♪今日はね、この後カミツレさんの撮影の見学に行くのよ」












「へえ〜カミツレの。モデルのおしごと見てくるの?」


現時刻はランチタイム。場所はギアステーション乗務員室。
ノボリ兄さんとクダリ兄さんとお昼を食べている最中です。


「うん。この間連絡が来てね、良かったらどう?って。見たいです!って即答しちゃった」

「やっぱり女の子はそういうの見て楽しいの?」

「勿論よ!それに、カミツレさんはお忙しいから、会いたくても中々会えないじゃない?久しぶりにお会い出来るから、嬉しいの」


改めて、すごい人とお近づきになってしまったものだと思う。
出会ったばかりのあの時は、ジムリーダーでスーパーモデルでっていうことを聞いただけだったから…すごい人なんだって思ったけどそれだけで、どこまですごいのかっていうのは実感が沸いていなかったのだけれど。
ちょっと意識してみれば、本屋の雑誌コーナーを冷やかしてカミツレさんを見なかったことが無いし、あまり見ないテレビをつけてもCMとかでよく目にするし、電光掲示板でもカミツレさん関連の情報をよく特集しているしと、そんな具合で。

紛う事なき、イッシュの誇るスーパースターだ。


「すごく楽しみ!」

「そんなもんか〜。ぼくたち、前にファッションショーに招待されて見に行ったことがあるけど、退屈なだけだったな〜。ね、ノボリ」

「そうですね。カミツレ様には申し訳ありませんが」

「えー?何よそれ勿体ない」

「だって興味ない。ノボリと照明の色でポケモン連想ゲームして遊んでおわった」

「後からカミツレ様にこってり搾られましたね。見られてなどいないと思ったのですが、甘かったようです」

「…兄さん達って礼儀があるのか無いのか…」


二人ともちゃんとお仕事できる、しっかりした大人なんだけど、変なところで子供だったりするのよね…ノボリ兄さんも。
でもやることが照明でポケモン連想ゲームて。可愛いことしてんなオイ。


「ナマエにとっては楽しい場なのでしょう。家のことなどは気にせず、楽しんで来て下さい」

「うん!遅くなっても大丈夫だからね!」

「えっ、そんな、夕食の準備はちゃんと出来るように帰ってくるわよ。そんな長時間居座ったらご迷惑になるわ。」

「ちっちっち。甘いな〜ナマエ!カミツレがナマエをそんなちょっとの時間で放すとはぼく思えない」

「まず確実に、夕食まで同行させられるでしょうね」


兄さん達が呆れたような顔をして言う。


「え、え〜?そ、そうかしら?それだったら嬉しいけど…」

「まあ、遅くなりそうなのであれば連絡を入れてください。ナマエは普段からとても頑張って下さってますし、骨休みも兼ねて。」

「…そんなに働いてないわよ」


超オーバーワーカーなこの人達に言われてもなぁ…事実、毎日半休みたいなもんだし。


「そんなことはございませんよ。わたくしもクダリも、とても助かっているのです。遊んできてくださいまし」

「そうそう!売店のおばちゃんが言ってた!主婦はお休みがないんだって!だから今日はこれからお休み!」

「…いいの?」

「いいの!」

「勿論でございます」

「…ありがとう。ノボリ兄さん、クダリ兄さん」

「うん!いってらっしゃい」

「連絡だけはちゃんと入れるのですよ」

「あはは。はーい」


主婦じゃないけどね?
まあでも、お休みは嬉しい。うん、楽しんでこよう!





「ナマエちゃん!なんだか久しぶりね」

「カミツレさん!こんにちは。今日はお誘いいただきありがとうございます」


カミツレさんにご招待いただいたのは、ライモン郊外にあるちょっとしたお屋敷だった。
どうやらスタジオとして貸し出している施設らしく、中には撮影スタッフさんとおぼしき方々しかいないようだ。

カミツレさんはもう撮影の準備を済ませている様子で、普段よりしっかりめのメイクを施されていて、輝かんばかりの美しさを放っている。うーん目の保養。


「迷ったりしなかった?ちょっとわかりずらいところにあるわよね、ここ」

「なんとか大丈夫でした。撮影はこれからですか?」

「ええそうよ。……あーそうなんだけれど…ごめんなさい。ちょっと今押しちゃっててね」


カミツレさんが僅かに表情を曇らせる。…すごいな、カミツレさんって本当どんな表情も画になるな。


「そうなんですか?」

「ええ。今日の撮影を担当するはずだったカメラマンがね、急病で来られなくなっちゃったらしくて…今代わりの人を手配してるところなの」

「えっ!?た、大変ですね…!?今日、撮影出来るんですか?」


それってちょっと押してる、ってレベルじゃない…よね?
私、業界のことはよく分からないけど…結構なハプニングなんじゃないのか、これって。
カメラマンさんいないとどうしようもないもんね?


「うーんちょっと苦しいんだけどね…でも、別の日で予定を組み直すことも難しいから、強攻策で行くみたい。ナマエちゃんには結構待ってもらっちゃうことになりそうなんだけど、時間とか大丈夫?」

「あ、それは大丈夫です。兄さん達に今日のこと言ったら、夕食のことは心配しなくていいって言ってくれて。お休みをもらっちゃいました」

「あら、あの双子気が利くじゃない。ちゃんとお兄ちゃんしてるみたいね」

「あは。はい。いい兄さん達です」

「ふふふ。それは良かったわ」


二人で顔を見合わせて笑い合う。カミツレさんはあれからも、新生活のことで度々気を掛けて下さっている。
曰く、『あのデリカシーの無い奴らと暮らすのは、慣れるまで大変だろうから』と。そんなところも、カミツレさんは本当に素敵な方だ。
私もすっかりいちファンです。


「じゃあ、上がりの時間は気にしなくてもいいのね。…でも今からが暇なのよねえ」

「そうですよね…」

「……そうだ。…ね、ナマエちゃん?」

「………な、なんですか?」


うーん、と考える仕草をしたカミツレさんは、何かを思いついた様子で私を見るのだが…なんだろう。すごく目が輝いていて…ちょっと輝きすぎていて、嫌な予感がする。
…なんか、想像つくけど。


「着せ替え人形、してもいいかしら?」

「…そう言ってくるかなって、ちょっと思いました…」

「うふふふふ。分かってくれて嬉しいわ。 ね、いい?いいわよね?
今日はね、この間ナマエちゃんに買ったブランドのシーズンの新作が一通り揃ってるの!きっと似合うわ!絶対似合うわ!」

「あ、は、はい喜んで!お仕事のお邪魔にならないのでしたら!」

「ありがとう♪」


…カミツレさんって、よく兄さん達のことをバトル廃の地底人とか言ってるけど…この着飾り欲のバーサク状態って、バトル時の兄さん達に連なるものが…ある気がするんだよなぁ…。あれかな、類友ってやつ…。
まぁ反応が怖いので本人には口が裂けても言いませんが。


「じゃ、メイクからね」

「…えっ?服着るだけじゃないんですか?」

「だって他のスタッフだって暇なんだもの。やるなら徹底的に。よ!」

「え、えええ。それって流石にご迷惑なんじゃ…だって私にメイクをしてくださってもそれはお仕事じゃないわけですし…お給料出ませんし…」


この前とはまた違うわけで…あの時は最初から仕事じゃないってことを承知で来てくださった方々だったけど、今日ここにいる皆さんはお仕事で来ているのだ。お仕事モードな訳だ。
そんな中でこんな一般人にボランティアサービスは…ちょっと…。


「大丈夫大丈夫。ナマエちゃんは色々と気にしすぎよ!…まぁ、そこが可愛くもあるんだけれど。

ここにいる人たちはね、皆、好きでこの仕事をしている人ばかりなの。メイクはメイクをするのが好きだし、スタイリストはコーディネートをするのが好きよ。だから大丈夫。彼らの暇潰しにもなってあげてちょうだいな」

「そ、そうですか…?」


そんなもんなのかなぁ…。


「そうなの。ホラ行った行った!」

「あ、ちょ…!カミツレさんってばもう!」


ぐいぐいとカミツレさんに背中を押され、控え室へと通される。

もーそこからはいつかのデジャヴだった。先日もお世話になったメイクさんとスタイリストさんのタッグでいろーんなことされた。服が変わる度にメイクも変えてくっていうこの情熱…業界人って怖い。まあでも、今回は前回ほどのスピードは無かったんだけど。
1着着る度に、休憩があったというか。カミツレさんにスタジオ内を案内してもらって探索したり、庭でカミツレさんのポケモン達と戯れたり、お茶したり。だから、とても楽しかった。あまり疲れなかったし。

だいたい2時間くらいたった頃だろうか。やっとカメラマンさんが到着して、カミツレさんの撮影になった。
今日はファッション雑誌の撮影そうなんだけど、時間が押したことで撮影枚数を減らすことになったらしく、撮影時間は短縮された。…とは言っても、十分バシバシ撮ってたんだけど。
スタイリストさん曰くこれだと随分少ない方らしい。通常だとどのくらい撮るのか、全く想像が付かない。

撮影中のカミツレさんは…もうとにかくかっこよかった!本当かっこよかった!なんかそれしか言えない。
なんていうか…表情からポージングから、プロのモデルの気品と自信に溢れていたというか。こういう撮影って、カメラマンさんがモデルさんにポーズとか色々指定して撮るのかなって思ってたんだけど、そんなことは無くて…シャッターが押される度に雰囲気が変わるカミツレさんを、カメラが必死に追ってるような印象だった。
カメラを向けられたカミツレさんは本当に本当に素敵で…見れて良かったなって、来て良かったなって、心から思った。







…んですよこの時は。





「…ん?」


あれから数週間が経過した、とある日のお昼時。
いつものようにお弁当を持ってギアステーションを訪れると、なにやらいつもより人がごった返していた。
…兄さん達は特に何も言ってなかったと思ったけど、今日は何かイベントでもやっているのだろうか。

全体的に人が多いんだけど、女の子の比率ががいつもより多い?かな?
…え、何あれ。なんか報道陣みたいのまでいるんですけど。何事だ一体。


「…あっ!いたっ!!」

「へっ!?」


人混みを観察しつつ、適度に距離をとって通り過ぎようとしたら、いきなり人混みの中にいる女の子の一人に思いっきり指を差され…


「おったあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「って、え、ええええええ!?」


た。と思った刹那、いきなり現れたクラウドさんに…肩に担がれました。
…っな、何!?何!?
えっ、担…担がれてるよ!!?


「こちらクラウド!おった!おったで!!捕獲成功や!!」

『ほ、本当ですかクラウドさん!?ぼ、ぼくまたなんかよく分からないとこ来ちゃっ…』


…インカム?カズマサさんの声が…


『ウワアアアアアアアアアアア、マジデェ、クラウドサンマジデェ!ヨカッタアアア!命繋ガッタ!』

『いやまだ油断は出来ない!総員、退路確保に回るんだ!』

『クラウド、今はどの辺?』

「中央口を張っとったさかい、その周辺や!」

『追ッ手ノ数ハ!?』

「…多数!」

「…へ?」


条件反射的に後ろを見てみると…うわほんとだ!なんかめっちゃ人こっち来てる!
な、何!?何!?何が起こってるのこれ!?


「く、クラウドさん!これ…」

「ちょお黙っときぃやナマエさん!舌噛むで!」

「え、え、じゃ、じゃあ自分で走りますから下ろして下さい!重いでしょう!?」

「下ろすのは却下や!ナマエさんに何かあったら俺らの命が無いんや!!あと大丈夫や!軽い!!」

「え、ええええ!?」

「とにかく乗務員室まで黙っとき!!」


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