…なんとか、無事、乗務員室に到着しました。


「…ウッ、よ、酔った…」

「ナマエサンダ…ナマエサンダァァ…オ、オレタチ、助カッタンダ…」

「カナワ改札で挟みうちされたときは…もう駄目かと思ったのさ…」

「ジャッキーのナビがなかったらアウトやったな…」

「…そういえば、カズマサがいないけど」

「放っておけばいいんじゃないかい?」

「な、何が起こってるんですかこれぇぇ…」


うえええきもちわるう。走ってる人に担がれるとか…地獄以外の何物でもなかった。
あーあー。お弁当箱のフタ開けるのちょう怖い。絶対大惨事。
でもバスケットじゃなかっただけまだマジか…。


「…これなのさ」

「え…?」


椅子をお借りしてうつむいて、胸のムカムカと闘っている私に、ラムセスさんが一冊の雑誌を手渡した。
それはとある女性ファッション雑誌の最新号で…先日撮影したのカミツレさんの写真が掲載されているはずのものだ。


「あ、発売日今日でしたっけ。買おうと思ってたんですよこ…

……れ…?」


…ん?
…表紙に、私がいる。ゼブライカと一緒に。

……何これ。…コラ?それともドッキリ?


「「ナマエ!!!!!」」

「ふぁい!?」


ポカンと雑誌の表紙を見つめていたら、兄さん達が乗務員室に駆け込んできた。


「貴女という子は!!!ライブキャスターに!!!出なさい!!!!!」

「えっ、はっ、はい!?ご、ごめんなさ…ヒッ!?」


鬼が、いる。

ひ、ひいいいいいいいいいいいい怖い!!!ノボリ兄さん怖い!!!ちょう怖い!!!
か、顔が!マジで!鬼!!!
雑誌を盾にして顔を隠す。意味ない?知ってる!!
クダリ兄さんも後に続く。


「何回もコールしたのにナマエ出なかった!!すごく心配した!すごくすごく心配した!!何で!?何で出なかったの!?」

「ご、ごめんなさい気付かなかったわ…!!れ、連絡くれてたの?ね?」

「ええ入れましたとも!!何十回と!!!何故出なかったのですか言ってご覧なさい!!!」

「ひっ!マ、マナーモードにしてバッグに入れてました!」

「何故そのようなことをしたのですか!!!」

「え、だ、だって普段昼間に連絡なんて来ないからあああああ!?」


怖い怖い怖いマジで怖いいいいいいいいいいい

だって私のキャスのアドレス帳、兄さん達とカミツレさんだけなんだもん!使い始めてこのかた、お昼時に鳴ったことなんて無いんだもん!
ぽいっとバッグに入れてありましたよ!!


「それではライブキャスターの意味がありませんでしょう!!!」

「す、すいませんごめんなさい許して下さいいいいい!私が悪かったです!!」


マジ怖いよノボリ兄さん鬼だよ修羅だよ!!!てか何でこんなに怒ってるの!!!??(泣)
雑誌で頭を覆いひたすら小さく縮こまる。

そこに、涼やかな声が掛かった。


「そのへんにしておあげなさいな。可哀想に、怖がってるじゃない」

「…えっ?」


このお声は。


「カミツレ!!」

「出ましたね諸悪の根源!!」

「こんにちは、ナマエちゃん。お邪魔するわね」


カミツレさん…だ。
…えっ、なんでこんなところにカミツレさんがいるの?

ああもう頭がついていかない。ギアステーションに来た瞬間から壮絶なおにごっこに巻き込まれて…ドッキリを受けて…兄さん達に鬼の形相で怒られて…果てにはカミツレさんのご登場?
…なんなの今日は。


「よく撮れているでしょう。それ」

「え?」

「あら、まだ中身見てない?」

「言うことはそれだけでございますか、カミツレ様」

「廃人はちょっと黙っていて頂戴」


カツカツとヒールの音を響かせながら私の傍らまで来たカミツレさんは、するっと私の手から雑誌を取ると、パラパラとページをめくって再度私に差し出した。


「ほら、ここからよ」

「…これ、私ですか」

「ええ。どこからどう見てもナマエちゃんよね?」

「…そう…ですけど…」


カミツレさんが差し出したページには、私が…いた。しかも結構前の方のページで。結構でかでかと。
見出しは…『特集!乙女系ブランド流行予報』。
1ページに1ショット、ページを大胆に使っての構成だ。

『何色にも勝るインパクト、清新なピュアホワイト』とか『旬のミニドレスは、明るく甘やかなプリントで』とか…なんかそんな気恥ずかしくなってしまうキャッチフレーズと共に、ページの端にはお洋服の詳細。
………えっ。


「カバーも良い感じよね。私のゼブライカと写ってるやつ。やっぱりナマエちゃんはポケモンといるときの表情が一番素敵ね」

「…ちょ、ちょっと待って下さいカミツレさん…?えっ、これってあの時の…?」


…どう見ても、あの時に着た服だ。背景もあの場所だし。
…にしてもプロって怖いな…これ、確かに私だけど、なんか通常時の1.5倍は美しく見えるぞ…?
うわーこれ私なんだ?すげー…


「うんそう。ごめんなさいね?カメラ、最初からいたの。」

「………はぁ…でも何故、私を…?」

「それは勿論、撮りたかったから。それに前、一式のお買い物をした時のプレスがナマエちゃん撮りたいって言ってたの覚えてる?
彼女がね、今回のタイミングでどうしてもって言ったものだから。」

「は、はぁ…」

「…嫌だった?」

「あ、いえ…嫌では…ないです。こんなに綺麗に撮っていただけて…。ただ、ひたすら驚きました…」


びっくりしたけれど…特に嫌というわけではない。
恥ずかしいけど、嫌なわけではないのだ。…恥ずかしいけどね。
ファッション雑誌にモデルとして載るなんて、女の憧れであるわけだし。まだ実感沸かないからアレだけど、私結構嬉しいんだと思う。

…なにより、カミツレさんとのツーショットも、載ってるし…。
これ二冊買って、一冊は切り抜きしよう。うん。 ←ファン


「良かった!ナマエちゃん、気後れしてるだけでモデル自体への興味はありそうだったから、ある程度は大丈夫だって確信はしてたけど…ちょっと不安だったのよ。
でも最初から撮影ってことを教えてしまったら、こんないい表情は撮れないと思って。…黙ってこんなことして、ごめんなさいね」

「いっ、いえそんな!貴重な経験をありがとうございました!」

「うふふ。じゃあ次はカメラ目線も挑戦してみましょうか?」

「えっ」

「…そろそろ宜しいでしょうか?」


ヒッ!…そうだ、ノボリ兄さんおかんむりだったんだ…。
あ、背中に冷や汗が。


「ナマエを懐柔しようとも、わたくしは騙されませんよ。貴女様のしたことで本日、ギアステーションがどれだけ大変なことになっているとお思いですか」

「そうだよ〜!今日ねーお客さん超おおいの。もうぼくもノボリもクタクタ」

「…あれ。そういえば鉄道員の皆さんは…?」


ふと気付いたら、私達4人以外誰もいない。


「うん?クラウド達なら、お説教スイッチはいったノボリ見て逃げたよ?」

「あっ…そう…。なんだか、さっき皆さん総出で大逃走劇をしてくださったのだけど…お礼、言えなかったわ…」


…って、いうか…この流れ、だと…。


「もしかして…今日ギアステーションに人が集まってる原因って、私…だったりするの?」

「え?うんそうだよ? ぼくとノボリにそっくりな女の子が雑誌に載ってるって、ネット上ですごい話題になってるみたい。トレインに乗ってわざわざぼくたちの所まで勝ち進んで、取材しようとした人なんかもいた」

「うっわぁ」


まじでか。あ、だから女の子が多くて…報道陣か。あの報道陣の目当ては私だったのね。なるほどなるほど…。

…なにそれ怖っ!
も、もし何も知らず捕まってたらと思うと…うわあああ超コエエエエ!
鉄道員の皆さん守ってくれてありがとう!本当にありがとう!!!


「…そういうことでございます。ですからナマエには、今日は一日部屋から出ないよう指示をするつもりでした。しかし連絡がつかなかった為、鉄道員にナマエの護衛をするよう指示したのでございます」

「…どんな風に指示を出したかは、聞かないでおくわね」

「あはは〜、そのほうがいいとおもう!」


なんか物騒なこと、言ってたもんなぁ皆さん…。
この、わたしに甘い兄達に、なんか想像もつかないような脅され方を…されたのだろう。多分。いや間違いなく。
…ウッ、すいません。今度せめてものお礼に、お菓子いっぱい焼いて持ってきますね…!


「…カミツレ様。ナマエを撮影したことだけに関しましては、何の文句もございません。
寧ろありがとうございます。10冊買います」

「やめて!!!」

「しかし、カミツレ様ほどのお方であれば、こうなることを予測することができたのではございませんか?事前に雑誌掲載に関するご連絡をいただけたのであれば、それ相応の対処も出来、ここまでの混乱には至らなかったでしょう。
その点に関して、貴女様はどのようにお考えでしょうか?」


ギロッ、とノボリ兄さんがカミツレさんを睨む。…ちょっと怖すぎて間に入る勇気はない。
しかしカミツレさんは相変わらず涼やかな、どこか不敵な笑みを浮かべたままだ。


「そんなもの、決まっているでしょう。貴方こそ、分からないのかしら?ノボリ。」

「ええ、分かりません。教えていただけますか?」

「前々から言ってることよ?私、あなたたちのメディア露出の低さが不満なの。
そういうことよ。」

「…その事と、今回の事との関連性があるとは思えませんが?」


…二人の目線の中間に、火花が見える。


「…ねぇクダリ兄さん。私、なんだか二人がすごく怖いのだけれど」

「うーん、ぼくは二人はこわくないけど、飛び火が来そうでこわいかな!」

「ええそうよ貴方もよクダリ!貴方達二人!サブウェイマスターのメディア露出の無さが私は納得できないの!!」

「ほら来たー!」


うわーんナマエたすけて!とクダリ兄さんが私の後ろに隠れた。
…兄さんの方がずっと体大きいんだから、あんまり意味無いわよ?それ。


「関連性は無い?…大有りよ!
あのね、今回メディアがナマエちゃんに注目してる理由は、ナマエちゃん自身に興味があるからじゃないのよ?
ナマエちゃんを利用して、中々メディアに出てこない貴方達を引っ張り出そうとし・て・い・る・の!」


ビシッ!
カミツレさんが仁王立ちでノボリ兄さんに人差し指を突きつけた。


「いいえそのようなことはございません!取材などが来ていた理由は、全てナマエが美…」

「お黙りなさいこのシスコンが!!
ナマエちゃんがどんなに可愛くてもね、話題性が無ければここまで世間は動かないわ!」

「わたくしとクダリなどの何処に報道陣の方々が注目する要因があるというのですか!」

「上げればキリが無いわよ!ライモン屈指の観光施設の一つであるバトルサブウェイのサブウェイマスター、黒と白の孤高の双子!
サブウェイのボスとして君臨するに相応しい実力を持ち、その容姿は端麗と噂されるも、姿を見たことのある人は勝ち進めるだけの実力を持った一握りの人々!
メディアへの取材の一切を拒否している為に、噂が噂を呼び、インターネット上では非公式ファンクラブが設立されている始末!」

「っく!そ、それは…!」

「…ここまで言っても分からないのかしら?こう言ってはなんだけれど、今日ナマエちゃんが危険な目にあったのは、突き詰めれば貴方達のせいよ?
そう、ノボリとクダリのせいで今日、ナマエちゃんは危険な目に晒されたのよ!!」

「え、ええっ!?」

「んなっ、なんと…!?」


…兄さん達が雷に打たれたような顔をしている。カミツレさんつええ〜。
カミツレさんのK.O.勝ちだわ、これ。完全勝利だわ。

でもなるほどな〜。そういうわけなのか。
そうだよねぇ。サブウェイマスターに顔が似てるだけの無名の小娘が雑誌に多少載ったからって、この騒ぎはおかしいもんなぁ。
全ての目的は、わたしの先にいる兄さん達だったと。ふむふむ。


「貴方達に対する世間の興味…私はそれを証明したかったから、貴方達にも、ナマエちゃんにも雑誌に関しては一切の情報を与えなかったの。
…あ。でもねナマエちゃん。私、貴女が捕まりそうになったら助けてあげるつもりだったから、そこは安心してね?」

「えっ、あ、そうなんですか?」

「ええ。私もナマエちゃんに着信、入れておいたんだけど…返事がなかったから。これはいつも通りにギアステーションに来るだろうと思ってね。待ってたの。
ふふ、でも随分と楽しそうだったわね?鬼ごっこ。見てて面白かったわ」

「あ、あはは…。でも、あんな人が多かったのに、よくカミツレさんだってバレませんでしたね?」

「今日は皆、銀髪ロングの女の子しか探してなかったもの。簡単よ」


カミツレさんがノボリ兄さんの所から私の元に歩いてきて、私の髪をサラッと撫でる。あ、クダリ兄さんがノボリ兄さんの所に逃げた。
…ああカミツレさんのフレグランス、とっても良い匂い。


「…良い機会なんじゃないの?二人とも。これを機に、メディアへの顔出しを適度にはじめなさいな。
ほら、ミーハーなお客さんが多くて困ってるって前も零してたじゃない。それって、貴方達にも原因があるのよ?無意味に隠れようとするせいで、あちらも血眼になって追ってくるんだから」


…兄さん達は軽く涙目だ。


「…しゅ、取材きらい…」

「そ、そのようなものを受ける時間も…あ、ありませんし…」

「全く…あなたたちがそんなんじゃ、これからも事ある毎にナマエちゃんが大変なのよ?それに…

これ、欲しくない?」


ピッ、とカミツレさんが上着のポケットからなにやら小さなチップのようなものを取り出した。
あれっぽい。PSPとかデジカメとかに使うやつ…SDカードとかメモリースティックとか、それ系。


「…カミツレさん、何ですか?それ」

「ん?ナマエちゃんの今回の撮影分、雑誌掲載に使われなかった画像盛り沢山のデータファイル。プロの厳選100枚よ」

「ひゃ、ひゃく…」


…カメラ、全く気付かなかったんだけど…げ、厳選して…100?
あの日一体何枚撮られてたんだろ…。


「なにそれ!欲しい!ねぇカミツレぼくそれほしい!!」

「うふふふ、そうよねぇ欲しいわよねぇ?
…再来月発行のライモンシティ情報誌、私監修のグラビアページを設けてくれるなら、あげるわよ?」

「な…!?や、やり口が卑怯でございます!」

「なんとでも言いなさいな。やらないなら、これはあげないから」

「のっ、ノボリどうしよう!?」

「ぐっ…プロの方撮影の、ナマエの写真100枚…!!」

「…こんなもので揺らぐんだったらやればいいじゃない……」


…それに、時間の問題だと思うわよ?兄さん達…。

今日分かった。カミツレさんには誰も勝てないわ。
ギアステーションにたむろってる野次馬より報道陣より、一番恐ろしいのは多分この方よ。




「大丈夫よ!脱がせたりなんかしないから!あくまでかっこよく、サブウェイマスターの、バトルサブウェイの広報となるものを撮るから!」




…カミツレさんの目が、輝いてる…。
兄さん、どうやら次の着せ替え人形の犠牲者は、兄さん達みたいよ。…あ、でもそれ私も見てみたいかも。兄さん達が着せ替え人形…。


……


…カミツレさん頑張れ!あと一歩です!








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カミツレさんの最終的な野望は兄妹で撮ることなんだと思うYO
あ、キャッチフレーズは手持ちの雑誌から若干パクリました。きっと双子は黒い服と白い服の比率が合わないと喧嘩する。

朔夜さんリクエスト、『カミツレさんに計られ、ファッション誌のカバーを飾ってしまうヒロイン』でした。
リクエストいただいた時から情景が思い浮かんでいて、書きやすかったです。ありがとうございました!

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