「ついたよ!ここ!」

「このマンションの最上階になります」


…わーこれはまた…直下型大地震がきたら一発でアウトだろうご立派なマンションですね…
エレベーター的な意味で…









07. どうもお邪魔します









なんだかんだで、私はノボリさんとクダリさんのお部屋に泊めていただくこととなってしまいました。
あの後はもちろん断ったのですが、


「では今夜のアテはあるのですか?」


とノボリさんに言われて、勝てませんでした。事の真相も話せず仕舞い。
適当に犯罪をはたらいて警察に行こうと思っていると言ったら(※無賃乗車の件は解決してしまったので警察にご厄介になる理由が必要)、ノボリさんにものすごい形相で「お願いですから泊まって下さいまし」と懇願され、その顔のあまりの怖さについ「は、はい…」とほぼ反射で返事をしてしまった。
その後は、もう何を言っても聞き耳持ってくれませんでした。

にしても…目、かっぴらくと怖いです。オプションで影があった。こう、頬骨あたりから上に。
私も目、見開くとあんなんなるのかな…。



「ナマエそんな難しい顔しないで。お兄ちゃんのところに泊まると思えばいいんだよ〜。ホラぼくら三人いっしょの顔!」

「…お人よしすぎですよ」

「こうやって知り合ったのも何かの縁で御座います。どうか自分の家と思い、寛いで下さいませ。」

「こまったときはおたがいさまなの!ね!」


ノボリさん、クダリさん…


「…は、い。ありがとう…ございます」


…優しい、なぁ…。
そういえば散々なことばかり起こったけれど、ここの人は皆、優しかった。

相変わらず前途多難なわけだけど、なんだかちょっと希望が持てるような。
警察のご厄介にならなくても済む方法、頑張って探してみようかな。
てんで思いつかないけど。


「うんそれでよし!お兄ちゃんって呼んでもいいんだよ〜」

「え、えぇ〜?それはちょっと」

「でもわたくし達は本当に似ております。正直、他人とは思えません…と、こちらです。」


エレベーターで最上階へと昇り、一番奥の部屋。
高層マンションの最上階の角部屋って、一体おいくらまんえんなんだろう…


「散らかっておりますが、どうぞ」

「お邪魔しまー………す…」

「ただいまー!」


…え?

クダリさんが「あー今日も疲れた!ぼくがんばった!」と言いながら入っていった部屋は…あの、ちょっと、なんと言いますか。


「? 入らないのですか?」

「あ、いや、お、お邪魔します…」


ちょっと見たことないようなレベルの………汚部屋でした。本当に散らかってる。
お、男の二人暮らしってこんなもん?なの?
汚いと言うか、とにかく散らかってる。

口が縛られたゴミ袋とか、畳まれず放置された傘とか、街で配られていたとみられるティッシュとか、2Lペットボトルがいっぱい入ったダンボール×∞とか…目に入るものをあげていくとキリがない。
玄関口のスペースってこんなにものが置けるんだな…?


「すみません…普段はこれより多少ましなのですが、最近は繁忙期でなかなか休みが取れない為に…このような状態でして」

「い、いえ…でもちょっと意外…でした」

「ちらかしの天才ですよクダリは…とても追いつきません」


ため息をつきながらノボリさんが言う。
ああなるほど…そういう。
ノボリさんはキレイ好きそうだもんね。クダリさんが脱ぎ散らかした靴下を回収しながら進むノボリさんの後についてリビングへ向かう。
お兄ちゃんは大変だ。


「クダリ、あなた洗濯物は自分で洗濯機に入れなさいとあれほど…」
「ねーノボリノボリ。ナマエのパジャマってこれでいいかなぁ?」
「…また散らかして…」


リビングに行くと、クダリさんが洗濯済みとみられる洋服の山をひっくり返しているところだった。
うわぁぐちゃぐちゃ。
なんかおもちゃみたいなものとかと混ざって非常にカオスだ。


「ん〜どう?ナマエこれ着れそう?」


ボクのなんだけど〜とクダリさんが私の体に開襟の白いパジャマをあててきた。


「ぼくとノボリ、服のサイズいっしょ。だからこのサイズしかない」

「わ、ありがとうございます。お借りします。袖とか折り曲げれば大丈夫だと思いますよ」

「そうかな?でも襟元けっこう開いちゃいそう。ブラジャーして寝てね」

「は、はい…」


く、クダリさんキャラ濃いなぁオイ。
って、ん?なんかクダリさんの頭になんか乗ってる。黄色い…毛玉?


「ばちゅ!」


毛玉が鳴いた!あ!目!目がある!4つある!なんかプルプル動いてる!
え、これポケモン?なのかな?


「ん?バチュルどうしたの?おなかへった?」

「バチュル…?」

「そうバチュル。バチュル〜降りといで〜」


バチュルと呼ばれた毛玉は、器用にクダリさんの顔を伝って手に降りてきた。
う、うわあああああちっちゃああああいいいいいい
あれだ、ハムスターみたい。おでぶのジャンガリアン!
ううんゴールデンくらいあるかなぁこれ…か、かわいい…


「バチュルは…ポケモン、なんですよね…?」

「そうだよ。だっこする?」

「えっ、い、いいんですか!?」

「うん大丈夫。ほらバチュル。」


クダリさんに促されたバチュルは素直に私の手にやってきた。
わ〜ふ、ふわふわ…あ、ちょっとピリピリ?する。電気タイプ?
空いている方の手で頭を撫でてみると気持ち良さそうに目を細めて、


「ばっちゅ〜」


とひと鳴き。
や、ヤバイかわいい虜になりそう…


「ナマエはポケモンすきなの?」

「そう…ですね。好きです」


昔やったゲームでも一匹一匹愛でながら育ててたし、生き物はなんでも好きだ。
動物園か遊園地か問われたら迷わず動物園。
生体を取り扱うペットショップでは最高記録で3時間動かなかったことがある。
ああ実家の愛犬元気かなぁ…


「ポケモン1匹も持ってないんだよね? トレーナー、ならないの?」


…あー…


「うーん、ならないです。」


ちょいちょい。バチュルを指先で遊ばせながら答える。
喉元あたりをくすぐるようになでると手の中でころんとおなかを出した。
こらこらご主人以外の人に簡単におなか見せちゃだめでしょ〜


「なんで?ナマエ、きっといいトレーナーなれるよ?」

「ポケモンは好きですが…帰らなきゃいけなくなったとき、可哀想だから」

「…おうちだとポケモン持ってちゃダメなの?」

「はい」

「…そっか」


どうなるか全く分からないけど、もしかしたらすぐに元の世界に戻れるかもしれない。
その時ポケモン持ってたら、たぶんそのポケモン達は親なしの捨て子になっちゃうよね。
生き物が好きだから、そんなことはしたくないな。


「クダリ、ナマエ様。お話中すいません、宜しいですか?」

「いーよ。なに?ノボリ」

「入浴の順番をどうしようかと思いまして。」

「そっか。ナマエどうする?朝派?夜派?」

「お二人はいつも朝と夜どちらなんですか?」

「夜でございますね」

「なら私は朝にお借りします。明日もお仕事ですよね?
わたしのことは気にせず、いつもどおりにお使いになってください」

「あ、じゃあぼく先に入ってこようかな。いい?ノボリ」

「構いませんよ」

「じゃあ入ってくる〜!
ナマエ、バチュルとノボリで遊んでてね!」


バタバタバタ
クダリさんはスリッパを足に中途半端にひっかけて廊下に消えていった。
あれでよく歩けるなあ。


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