「ナマエ様、お茶を淹れましたので宜しければこちらへどうぞ」

「あっ、ありがとうございます!」


ノボリさんがソファのほうから声を掛けてくれた。
ちなみにわたしとクダリさんは洗濯物やなんかいろいろなものの山に囲まれたカーペットで直座りしてお話しておりました。


「カモミールティーです。ティーバッグで申し訳ありませんが、寝る前はこういうものの方がよろしいかと。ハーブティーはお好きですか?」

「はい。嬉しいです。」


さまざまなものが置かれたローテーブルに無理矢理スペースを作り、ノボリさんがティーカップを置いている。


「お隣失礼します。」


ソファのノボリさんのお隣に失敬し、お茶を頂こうとしたのだが、困った。
そういえば手はバチュルで埋まっていたのだった。


「バチュルでしたら、頭の上が好きですのでどうぞ乗せてあげて下さいまし」

「わ、わたしの、ですか?」

「ええ。ナマエ様はポケモンと仲良くなるのがお上手なのでしょう。バチュルはもう、貴女様になついておりますよ」

「…乗ってくれる?」

「ばちゅ!」


目を合わせて確認すると、「うん!」というように返事をしてくれたので、恐る恐る頭に乗せてみる。
あ、飛び乗った。


「こ、これでいい?大丈夫?」

「ばちゅ〜!」

「落ちちゃったりしませんか?」

「家ではいつもクダリの頭の上が定位置なのです。大丈夫ですよ。
さ、どうぞ冷めないうちに召し上がって下さいまし。」

「はい、頂きます。あ、いい香り」


高いティーバッグだなこれ。
いやまぁそうか。この生活水準に見合った感じだ。
あ、でもまだちょっと熱い。もうちょっと冷めてから頂こう。


「ネコ舌ですか?」

「あは、そうなんです。お恥ずかしながら」

「わたくしもなのです。幼少期からどうにも駄目でして。クダリは大丈夫なのですが」

「そうなんですか?ちょっと意外です」


じゃあ辛いものとかもクダリさんの方が得意なのかな?
熱いものに強い人って辛いものも強いイメージ。


「ばちゅ、ばっちゅ」

「ん?バチュルどうしたの?」

「ああ、バチュルの静電気でナマエ様の髪の毛が浮かび上がっているのです。クダリと違いナマエ様の髪は長いので」

「えっ、大丈夫なんですか?ば、バチュル降りる?」

「大丈夫そうですよ、遊んでおります。ああでも髪が絡んでしまいますね…」

「あ、バチュルが遊んでるならいいです。そのままにしてあげてください。」


しかし自分の姿がどうなってるのかは微妙に気になるな。
あれだよね?プラスチック下敷きでこすった時みたいな。
かなり笑える状態になっているのではないだろうか。


「ポケモンがお好きなのですね。
…申し訳ございません、先程のクダリとの会話、少々聞こえてしまったのですが」

「あ、別に構いませんよ?何ですか?」

「ナマエ様は、ポケモンは好きであるものの、あまり触れ合ったことがないとお見受け致しました。」

「はい。そうです」


正確には今日初めて触りましたね。


「宜しければ、わたくしの手持ちポケモンもご覧になりますか?」

「いっ、いいんですか!?」


そ、それは嬉しい…!
見たいしできれば触りたい…!!



「もちろんでございます。…お出でませ、シャンデラ。」

「デラッシャン!」

「…う、わぁ…!」


ノボリさんがひとつのモンスタボールを手に取り名を呼ぶと、とってもキレイな、シャンデリアのような形状をしたポケモンが姿を現した。
バチュルも可愛いがこの子も好みだ…。

無機物っぽいデザインなのに、命があって動いてる。…なんだかちょっと不思議な気持ちかも。
あ、紫色の炎がほわっと暖かい。


「…とてもキレイな子ですね。」

「ありがとうございます。良かったですね、シャンデラ」

「シャーン♪」


あ、笑った。目が細まった。可愛い。
声はどこから出てるんだろな?
なんというかこう、鈴を鳴らしたような声。


「炎タイプ…ですよね?」

「はい。炎とゴーストです。」

「へぇゴースト…だからちょっと幻想的な雰囲気があるんですね」


確か、初代の時点ではゴーストタイプってゴース、ゴースト、ゲンガーの3匹だけだったような。
この世界ではもっと沢山いるのかな。


「…触っても?」

「ええ、炎の部分以外なら大丈夫ですよ」

「…いい?えっと、シャンデラ。」

「シャン!」


私が手を伸ばすと、シャンデラは自分から私のほうに身を寄せてくれた。
くるんとした手のような部分を両手でそっと触る。
…あったかい。


「安心する暖かさですね。優しい。」

「ええ。ですがバトルでは、相手を焼き尽くすような炎を披露して下さるのですよ」

「わぁ…そうなんですね…!バトルしているところも見てみたいなぁ…戦う姿もキレイなんでしょうね…」


そうだよね。ポケモンなんだもん、バトルするよね。
強いのかな。こんなにキレイな子が強かったらかっこいいなぁ!


「ええそれはもう!バトル中のシャンデラはいつにも増してとても美しいのです。
またギアステーションにいらして下さいまし。バトルをご覧にいれますよ」


ギアステーション?…あ、駅のことか。
でも駅?で?バトル??


「ギアステーションに行くと、バトルが見られるんですか?」

「ええ。」


一体どういうことなんだろう…
あ。あれかな、クチバシティのサント・アンヌ号?あんな感じ?
あれは客船だったけど、 公共交通機関でもあんな感じでバトルがされているのかな?
…まぁ行けば分かるよね。百聞は一見に如かずだ。


「是非お邪魔します。クラウドさんにお礼も言いたいですし」

「こちらこそ是非、心よりお待ちしておりますよ。」


その後もシャンデラを挟んでノボリさんとお話をしていると、数分後にクダリさんがリビングに戻ってきた。
あ、髪の毛まだ結構濡れてる。


「ノボリ〜シャワーあいたよ〜」

「分かりました。ではナマエ様もそろそろお休みになられて下さいまし。わたくし達ももう間もなく就寝時間ですので」

「あ、はい。…シャンデラ、今日はありがとう。今度あなたの戦う姿をみせてもらうわね。おやすみなさい」

「デラッシャン!」


挨拶をすると、シャンデラはノボリさんのボールに戻っていった。
…そういえば生でモンスターボールを目にした訳だけど、やっぱりすごい技術だよなぁこれ…中って異次元なんでしょ?発明した人天才すぎるだろ。

…さてと。
残りのお茶を頂いて、カップとソーサーを持って立ち上がる。
何もできないけれど、洗い物くらいさせてもらおう。


「あ。待ってナマエ!バチュル、ナマエの頭で寝ちゃってる…し、髪の毛絡んじゃってる。
取るからちょっとじっとしててね」

「あ、は、ハイ!」


そうだ!バチュルが頭にいたんだった!
静かなのは寝ちゃってたのか。
ぴっ、っと気を付けのような姿勢で停止すると、私に貸してくれたのとよく似た白いパジャマを着たクダリさんが、私の正面に立ってバチュルの救助を始めた。 …の、だが。



ち、近い…!
いや、あ、しょうかないんだけど。近づかないと作業できないし。
ただあの、こう…私、作業がしやすいように少し俯いているんですね?そのせいで、目の前にはクダリさんの胸板が視界全面に広がっているんです…よ…
まだ暑いからか、クダリさんはちょっとボタン多めにはずしていて、ピンクに上気した肌からボディソープのいい匂いがしてくるんです…
こ、これ…ちょっと恥ずかしい!

って10代の花も恥らう乙女ならまだしも、この歳になってこれだけで恥ずかしいってどうなんだ私!
あ、クダリさん案外胸板厚い…
め、目を閉じればいいんだろうけど、なんか目がそらせない…!
と、思った途端視界が開けた。


「バチュル取れた〜!
…ってあれ、ナマエ顔赤いよ?どうかした?」

「あ、だ、だ、大丈夫です!なんでもないです」

「…ははーん?なになに?ドキドキしちゃった?」

「い!いえちが…「お兄ちゃんにドキドキするなんて悪い妹だなぁ!そんな子はこうだーっ!ぎゅーっ!」

「き、きゃー!え、ちょ、ちょっと離してくださいクダリさん!」


えー!?ちょ、ちょちょちょ何何ヤメテーっ!
わ、わたし恋愛遍歴とってもお粗末なのでこういうのどうしたらいいかわからないんですけどちょっとおおおおお
あ、あ、あ?や、やっぱり結構逞しいですねクダリさん!?
鍛えてる男の人素敵だと思いますよ!?
でも放してえええええ


「コラ愚弟」


べりっ


「ナマエ様が困ってらっしゃいます、お放しなさい。」


きゅ、救助感謝しますノボリさん!
すかさずノボリさんの背にすばやく避難する。


「え〜ナマエ困ってないよう。照れてるだけだよう。」

「黙らっしゃい。サッサと寝なさい。」

「ええ〜ナマエいっしょにねよーよ」

「遠慮します…」

「ちぇ〜」


ちょっと口を尖らせたクダリさんだったが、比較的すぐ諦め、「じゃあまたあしたね、おやすみ〜」と言い残しリビングを出て行った。 お、おやすみなさ〜い…
…ホッ。


「はぁ全く…申し訳ございませんナマエ様」

「い、いえ大丈夫です」

「客間にご案内いたします…あぁ先にカップをお預かり致しますね」


あ、そうだ私ティーカップ持ってたんだった。
…割らなくて良かった。


「あの、洗います!」

「ああいえ、それは大丈夫なのです。食器洗浄機がございまして。お心遣い痛み入ります」


…そうだったここ高層マンションの最上階なんだった。
セレブなんだった。
そりゃ食洗機くらいあるわな。


「では改めまして、客間にご案内致します。」

「はい…よろしくお願いします…」


洗い物くらい、したかったのになぁ…はぁ。
食事を頂いて泊めて頂いて、何もできないっていうのはちょっと沽券に関わるというか…
とぼとぼと、散らかった廊下を歩く。
…あ、ネクタイ。
どうすればこんな廊下にネクタイが…


「…ここになります。普段クダリが物置のように使っているために少々物が多いのですが、寝具類は先程整えました。ごゆるりとお休み下さいまし」


案内された客間は、ベッドとクローゼットのみのシンプルな部屋だった。…家具類は。
部屋の中程にベッドが配置されているのだが、ベッドの向こうはなんかいろんなものがざっくばらんに山になっていて、とても足を踏み入れることはできそうにない。
…ベッドを境に山になっているのを見るに、さっきベッドメイクのついでにノボリさんが部屋中に散らばってたのを積み上げてくれたのだろう。


「…本当にありがとうございますノボリさん。お借りします。」

「いえ。ではおやすみなさいまし」

「はい。おやすみなさい。」


パタン。


「…ふー」


さて…今日は色々なことがあって疲れたし、おとなしくもう寝よう。やることもないし。

クダリさんにお借りした大きなパジャマになんとか着替え、ぼすん!とベッドに体ごとダイブする。あ、ふかふか。

…本当にお二人とクラウドさんには感謝してもしきれないな。
あ、それに医務室のお姉さんとタブンネ、それにホームで対応してくれた駅員さんも。
なんというか、今日は不思議なことが起こりまくったこと以上に、色んな人に助けられたのを実感した日だった。
こう…支えられて生きている…




でも特にノボリさんとクダリさんには何か…何か一宿一飯の礼がしたいなぁ。

何かできないかなぁ〜。







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サブマスサブボスの兄組が弟組を「愚弟」って呼ぶのたまらなく好きです。
効果的に使いたいですね…

あとノボリさんも生活力はあまり無いが個人的にツボです。仕事人間。


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