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20.見ろ、雲は止まっていない














20.見ろ、雲は止まっていない












「すみません、ミカル。僕のせいで危ない目に遭わせてしまって」
「悪いのはイオン様ではありませんわ。それに、イオン様に何事もなくてよかったです」

揺れる甲板で3人並んで話していた。黒髪二人に挟まれるイオンは、珍しく一人頭が飛び出ている。
申し訳なさそうに謝るイオンにミカルは腕を振った。

「そうですよぉ!悪いのはぜーんぶ根暗ッタなんですから!」

アニスは眉間を寄せてイオンに向けて言った。しかし、その言葉はイオンだけでなくミカルの表情まで曇らせる。
聞けば、アリエッタは初めて襲ってきたわけではないと言うこと。コーラル城以前にルーク達は追われていたらしい。その理由は、なんとも悲しいものだった。

(…いくら魔物とは言っても……親、なのよね)

アリエッタが魔物と意思を疎通できるのは、彼女が魔物に育てられたからだと言う。ライガの群れの中で育ったアリエッタは、ライガ達の親玉であるライガクイーンを母親として慕っていた。しかし、ライガの棲む森はミュウの炎によって誤って燃やされ、移り住んだチーグルの森でルーク達と出くわしてしまった。彼らは繁殖期を迎えていたライガを卵ごと消してしまったのだ。それは、生まれた仔供が近隣の街・村を襲わぬようにするための“人間”としての配慮。しかし、それはアリエッタにとって母親は疎か、生まれたばかりの妹や弟を殺されたのと同じことなのである。
ルーク達を『仇』という彼女は、深い憎しみにとらわれているのだろう。ミカルは、アリエッタばかりが悪いとは責めることはできなかった。


「…アリエッタはこの先どうなるんでしょうか?」


コーラル城で仲間達と別れた後彼らはアリエッタと戦闘になり、その身柄をヴァンが請け負ったと言う。ミカルが気にしていたのは、コーラル城のことだけではない。カイツールの軍港にて起こしてしまった大惨事…船を襲い、港に居たキムラスカ兵を惨殺したというのは紛れもない事実。教団の査問会にかけるらしいが、一体どうなってしまうのか。


「ミカルはやけにアリエッタの肩を持つよね。なんで?」

イオンの向こう側からアニスがこちらへ顔を傾けて言った。

「手紙をやり取りしてたのは知ってるけどさ、特別親しく関わってるってわけじゃないじゃん」
「確かに、会ったのは2年前に1度だけで、それ以来はずっと手紙だけだけど…」
「だけど?」

見上げる空には、譜石がきらめいている。ミカルは譜石からゆっくりと目を外すと、イオンを見、続けてアニスを見ると、穏やかに笑った。



「お友達、だからよ」


大きいも小さいも関係ない。
時間の流れも関係ない。
ミカルは、自分の言葉に喜んでくれたあの顔を忘れない。

 


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