Épelons chance | ナノ
92.フリックラップス
肌寒い夜が明けて、明日という今日がやってきた。
欠けたパズルにピースが埋められて、世界の姿が本来のものに近づいた。陽が昇って、明るくなるのはきっと目に見えるものだけではないのだろう。色を変える。世界が戻る。それなのに。
「『ルーク』じゃなくて、ごめんな」
そんな言葉を聞きたかった訳じゃない。言わせたかった訳でもない。
だが、あの時、あの瞬間、望んだ奇跡が形になった瞬間。希望という願いが崩れていったような気もした。
長い時間待たせてやっと登場したヒーローはお供を連れずに一人で、どこか懐かしさの残る笑顔を向けていた。
92.フリックラップス
昨晩、彼を乗せたアルビオールはバチカルへ飛んだ。帰ってきた英雄に公爵邸も王城もたちまち大騒ぎになり、時間も忘れて歓喜の渦が上層を包み込んだ。きっと今はもっともっと街全体に広がって、キムラスカ総出で彼の帰還を喜んでいる頃だろう。
形式を間違えた成人の儀もやり直すことが決まり、それに合わせて城では帰還祝いのパーティを開くとインゴベルト国王が自ら宣言していた。取り急ぎ準備を整えて、後日また招待状を送ってくれるそうだ。
「カーティス大佐ですか?本日はまだいらしてませんが」
そうして解散した翌日。グランコクマでは特に盛大な騒ぎが起こることもなく一日が始まっていた。
もちろんマルクトでもルークの名は英雄として伝わっている。それはキムラスカと変わらない。ただ、話の広がり方、そして馴染み深さからしても、キムラスカと比べればそれは雲泥の差ともいえようか。彼と関わりを持った人間が個々に喜ぶくらいで、あまり目立って日常が変わることもなかった。
「大佐でしたら研究室の方で見かけましたよ」
そしてここには、変化のない一日を始めることのできなかった男が一人。普段足を踏み入れることのない施設の奥へ、尋ね人を探してやってきた。
重たそうな瞼を持ち上げて、いつになく気落ちしているような蒼眼の奥には様々な感情が見える。他の部屋とは違い横開きの扉の取っ手を掴もうとした時、それは聞こえた。
『ではアッシュの死後、大爆発は起こった。そういうことですか』
まさにその名を持つ者の話をしようとやってきた場所で、聞きなれない単語が耳を掠める。
『……おそらくは』
『おそらく?おそらくとはなんですか?死んだと言ったのはあなたではありませんか。レプリカの個体だけが生きていて、戻ってきたのがアッシュなら、大爆発以外に何があるというんです』
「ビッグ……バン?」
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