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74.変遷に咲いた蝶




「あれ見て!あそこから装置に乗り込めるんじゃない?」
「昇降機が止まっていますね。今のうちに飛び乗りましょう」








74.変遷に咲いた蝶









レムの塔は外殻大地計画が成功したと同時に建設を途中放棄されたという記録がある。中央の昇降機が動いているところを見ると、メイン部分の作りはできているようだが、ミカルたちが上る階段は途中でなくなってしまっていた。その先には埃かぶった作業現場が残っており、所々に音機関や技術器具が放置された光景が広がっていた。調整用の小規模なリフトも動力が残ったまま点在し、彼女らはそれを乗り継いで上を目指した。
先に進む為に途中で調整器をいじったり、リフトを囲む分厚いガラスを割ってしまったりと、それなりの無法を働いた為か、ホールから上昇していた昇降機は緊急停止をしてしまったようで、止まっているリフトを見つけて一同は半ば無理やりに乗り込んだ。乗っていたレプリカたちは動かない昇降機に困っており、どよめきながら一行に不信に満ちた眼差しを向ける。彼らの搭乗によりその原因がこちらの仕業だとわかると、レプリカたちをかきわけて現れた一人が「お前たちか!」と声を上げた。
それは幾度も顔を合わせた、ガイの姉、マリィの姿だった。

「あ、姉上!?」
「……我はお前の姉ではない。我は8−027だ」

昇降機を動かすために作業をするガイの手が止まる。
心無い音で返されれば、彼は唇をかみしめるばかりだ。

「どうしてここに来たんです?モースの救いの手を待っているんですか」
「そうだ。地上には我らレプリカの住処はない。街の外に暮らすには我らの仲間は知識を持たず、街の中は被験者たちの世界だ」

マリィの言葉に、別のレプリカたちも口を開く。

「我々は恨まれている……。この地上には住む場所がない。おまけに被験者のために消滅しろと言う奴まで出てくる始末だ」
「レムの塔の最上階で待っていれば、モース様が新生ホドへ我らを導いてくださる。そう約束してくれた」

空に浮かぶエルドラントへ理想を投じて、彼らの目は迷いを知らない。それもそうだ。彼らはこの世界を振り返る理由が何一つない。己が生きる、ただそれだけの為に。


「我々はそこで、我々の国を造るのだ」


分かり合うことのできない隔たりは種の違いを二分する。互いに互いを受け入れることができないのも、また互いを知ることすらできていないからなのに。
彼女の言葉と同時に昇降機が動き出した。まだまだ中腹、リフトはぐんぐん塔を昇っていく。

「被験者の為に消滅しろって。……それは誰が言ったんだ!」

ルークが気が付いたように叫ぶ。まさかと顔を上げると、マリィレプリカは「お前と同じ顔の男だ」と答えた。その一言で皆は相手がアッシュだと確信する。やはり彼は一足先にレプリカたちへ接触をし、既にことを運ぶ算段を立てている。

「我らの命を使って障気を消すことに同意すれば、まだこの塔に辿り着いていない大勢のレプリカたちに、住む場所を与えると取引を持ち掛けてきた」
「そんなに死にたければ一人で死ねばいい。我々にはホドがあるのだ」
「我々はホドを目指す。モース様はきっと受け入れてくださる!」

力強く想いを乗せて、マリィは空を、エルドラントを見上げた。プラネットストームに囲まれた大地の中、彼らの未来がそこにあるかのように。



「ふははははははっ!たとえ何万年待とうと、そのようなことはあり得ませんよ!」



 


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