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68.煩憂を、誰が為に













68.煩憂を、誰が為に










「あ、あのさ」


バチカル城の大きな扉の前まで来て、一同の足が止まった。
挨拶を、と言い出したルークは、何故か口ごもりながら“自分一人で会いたい”と言いだしたのだ。

「まあ、どうしましたの?わたくしたちが一緒では不都合でもありますの?」

ナタリアの疑問ももっともな話だ。ここに来て“一人で”なんて、仲間内に何かを隠そうとしているように思えてしまう。「そ、そういう訳じゃないけど…」とやけに目が泳いでいるのを見ると、その疑いも更に肯定へと繋がるというもの。


(……隠し事?)

ふと、懸命にナタリアへごまかしの言葉を述べようとしているルークを見て、ミカルの頭の上で何かが閃いた。そしてそれはミカルだけではなかったようで――


「ははは、馬鹿だなぁ。お前は嘘が下手なんだから正直に話しちまえよ」
「ガ、ガイ!?」

頭を抱える後ろ姿に、笑いながら声をかけたのはガイだった。驚いたルークを挟んでミカルと目が合うと、彼はどこか面白そうに頬を上げている。
これは……と、ミカルは思わずにんまりと笑みを零して、気づかれないように眉を下げた。

「実はね、ナタリア。ルークはピオニー様から私的な手紙を預かっているの」
「まあ、ならどうして、それを隠しますの?」

見るも真剣な眼差しで言われるが、ナタリアは更に不思議そうな瞳で首を傾げる。

「実はここだけの話ですが、陛下はあなたを王妃にとご所望なんですよ」
「わ、わたくし!?」

それは…と続けようとしたミカルの様子などお構いなしに、ジェイドに声をかき消された。振り返ると彼は至極普段通りに微笑んでいる。ナタリアはこれ以上ない程に顔を赤らめ、途端に両頬を押さえながら目を泳がせ始めた。

「わ、わたくしにはルークが!あ、でもアッシュもいますわね。この場合どうなるのでしょう……」
「ナタリアずるーいずるーい!」
「ま、そんな訳で、ナタリアには秘密で手紙を渡してくれと言われてるのさ」

ニッコリと微笑んだガイに促されて「……わかりましたわ」と王女は一人城の前で待つことを決めた。

「さあルーク、行きましょうか」

普段通りの卑しい笑みを浮かべたジェイドに腕を掴まれ、ルークは未だ何が起こっているのかわからぬ様子で引きずられるように王城へ入っていった。

 


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