Épelons chance | ナノ



68.煩憂を、誰が為に



「おい、ガイ!ジェイド!ミカルも…」

無理やり城の中へ入れられたルークは、困った表情で振り返る。だが…

「アニスにティアまで……」

結局、ナタリア以外の全員がついて来てしまった。うなだれるように眉を下げた彼に、アニスに手を引かれたティアは頭を下げる。小さく溜息を吐くルークへ、ガイが懐へ指差して言った。

「お前、ロニール雪山でロケットを拾ってたよな。それのことじゃないのか?」

ルークはハッと瞳を大きくして、指された懐を握り締める。

「……なんだ、ばれてたのか」
「港でずっと深刻な顔をしてるんだもの。気になってしまうわ」
「ええ。野次馬根性です」

「で〜すv」と続けて楽しそうに声が響く。ミカルは薄く横目で二人を諌め、ルークへ視線を戻した。

「……ナタリアには黙ってろよ」

やはり、ナタリアに関係のあることで間違いないようだ。ロケットペンダントを手にしながら、何度も何度もナタリアの方を盗み見るように確認していたことは誰から見ても明らかだった。彼なりに色々と考えていたのだろう。
ルークが深刻そうに言った言葉に、その色とは正反対の「は〜いv」という返事が鳴り響いた。

■skit:嘘をつくのは大人から









インゴベルト六世陛下の部屋へ入ると、王は壁一面に並べられた本棚の前で読み物をしていた。一同が室内へ入り扉を閉めると、その中にナタリアの姿がないことにすぐに気がついたようだ。手にしていた本は書棚へ戻され、こちらへ歩み寄って来た。

「陛下。これを見てください」

ルークが懐から小さなロケットペンダントを取り出すと、インゴベルトは目を細くして手の中の物を受け取った。ぎこちなく開く小さな扉をあけた途端、中身を見た瞳が大きく開かれた。

「これは!」

中には赤子の写真が入れられていた。

「俺、赤ん坊の頃のナタリアってわかりません。でも陛下なら……」
「……これはナタリアだ。おそらく、間違いないだろう」

どこで見つけたのだ?と訊きながら、王はペンダントをルークへ返す。「ロニール雪山です」と答えると、アニスがルークの服の裾を引っ張った。見せて欲しいのか、ジッとロケットを見つめている。

「『新暦1999年。我が娘メリル誕生の記念に』…?」
「どうしてロニール雪山にこんなものが……?」

アニスに渡ったペンダントを覗き込みながら、ミカルとティアが呟く。すると、アニスが小さく「やっぱり…」と口を開いた。

「これ……前に見たことあるかも。チラッとだけど、確かラルゴが……」
「「!」」

空気が止まる。
「ありがとう」とペンダントをルークへ返すと、彼は手のひらでそれを握り締めた。そういえば、ロニール雪山といえば、以前六神将と戦った場所でもある。一月以上経ってはいるが、人の入らぬ土地であることに変わりはない。

「確かに条件が合いそうなのはラルゴくらいだけど……」

鵜呑みにするには早急かもしれないが、考えられる材料としては揃いすぎだ。だが、それを裏付ける証拠もない。
部屋の中に妙な沈黙が流れる。実父が明らかになったとしても相手があのラルゴだとすれば、それを本人がどう捉えるのか。ルークはロケットペンダントを握り締めた手を見つめて、複雑な表情を出しても口を開くことができなかった。インゴベルト王にも、なんと言葉にしていいのか。


「……ナタリアの乳母が暇をもらったそうだ」

ふっと、王が娘の名を口にした。

「今はケセドニアのアスターの元で働いていると聞いた。行ってみるといい」

わかりましたと頷いてロケットを懐へしまう。その行先を目に映しながら、インゴベルトは「ナタリアには……言うのか?」とやや伏し目がちに声を落とした。

「陛下はどう思いますか?」
「……わからん。知らせてやった方がいいのか……。しかし、相手がラルゴなのだとしたら……」

やはり、引っかかるところはそこだ。娘の為にどうしてやるべきなのか、父は心苦しそうに目を瞑った。

「はっきりした答えが出たら一度陛下のところへ伺います」

たのむ、と頭を下げられた。こんな時、動けぬ自分が歯がゆいのだろう。父である前に王、王である前に父であるというのは、そういうことだ。


「……しかしルーク、どうしたのだ。『陛下』などと、お前らしくない」

顔を上げたインゴベルトは、ルークへ向き直って眉をひそめた。ずっと『伯父上』と呼んでいた彼が、今日はずっと『陛下』と口にしている。
不思議そうに、少し寂しそうに、インゴベルトはルークの顔を覗き込んだ。だが、彼の瞳は緩く微笑んで地へ落ちてしまう。

「……俺、レプリカですから」
「それはいらぬ気遣いだ。わしにとってもお前も甥には違いないのだぞ」

丸まった背中を見て、ミカルの心臓にチクリと針が通るのを感じた。皆、彼を迎えてくれている。だが、彼自身が身を引こうとして苦しんでいるのだと知る。
小さい小さい声で返事を返したルークは、きっとアッシュのことを考えているのだろう。


 


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