Épelons chance | ナノ



65.鏡面に決意のラブカ



ダアトの西に大きな噴火口をあけた火山がひとつそびえている。
以前その内部に足を踏み入れたことがあるミカルたちは、上空から火山道へ向かう。ダアトより転移装置によって繋がっている道は、こんなところまで伸びていると考えるとそうとう高等な技術であることが伺える。ユリアの生きた時代かその後につくられたものであるが、昔の文明がどこまで栄えていたのかは定かではない。

ここザレッホ火山は、活動が盛んであることで世界でも有名な場所だ。だが、魔界へ落ちてからは今まで以上に活性化していると聞く。
足を踏み入れてみればその暑さは言葉では言い表せられない。彼らが行くのは蠢く溶岩の脇の道。体中から吹き出る汗に、体力は勢いよく削ぎ落とされていく。見れば、溶岩はボコボコと気泡を生み出して弾ける、そんな行動を繰り返している。汗が地面に滴り落ちれば、すぐに気化してシミを残さない。
こんな場所を進むと思うだけでも、酷く気力は落ち込んでいった。


「辿り着く前に、この暑さにやられそうね」

汗で張り付いた髪の毛を分けながら、ティアが言う。

「アニスの狙いはそこかもしれませんね。わたしたちを一気に始末する……」
「ジェイドッ!!」

一人だけ涼しげな顔で笑っている軍人へ、ルークが怒号を浴びせかけた。


「冗談です」


ささやかな笑顔さえも今は腹立たしいと、碧眼は睨みつけた。

この先に、イオンとアニス、そして――モースがいる。

■skit:火山、再び










65.鏡面に決意のラブカ











緋く蠢く溶岩を目に映しながら、全身が汗に包まれている。乾ききった地表は赤黒く、これは溶岩が固まって出来た道なのだと知る。吸い込む息は熱風そのもの。送られて来た空気に肺が苦しそうに悲鳴を上げようとしていた。

涼しげな顔をした軍人以外が項垂れながら歩いている中で、ひとつ、漆黒の瞳が行先とは別の方向へ目が逸らした。それと同時に足が止まる。
どこかを見る、というよりは大気中を見据えている少女に気がついて、ナタリアが声をかけた。

「ミカル?どうかしましたの?」
「なんだか……空気がおかしい気が…」

辺りを見回しながら言う彼女に合わせて、足を止めた一行。だが、彼女の言葉に皆は首をかしげ、「まあ、火山の中だしな」とルークに諭されてしまう。

「そうではなくて、安定してない感じがするの」
「安定?なんの話?」
「これは……音素…?」

怪訝そうに眉を寄せたミカル。その様子に、後ろを歩いていたジェイドが周囲を警戒し始める。「それにしては第五音素が濃いような……」そう呟いて何かに気づき、ハッと顔を正面へ向けた。

「――危ない、伏せて!」


彼女が叫んだと同時に仲間たちの頭上を火球が通過した。火の玉は地面へ落下し弾けると、周囲を溶かして炎を上げ土を溶岩と同じ色に変える。
急いで地面へかがむと、そこから二発、大きさの違う火球が再び上空を落下した。球が飛んできた方向を見上げるとそこには人間の五倍はあるであろう巨体が空を飛んでいる。炎のように燃え盛り揺らめく翼が大気を羽ばたき、長く伸びる尾の先にも炎が燃えている。

「ドラゴン!?」
「まずい!散ってください!」

ジェイドが叫ぶと、ドラゴンは岩のように固く太い前足で踏みつけるように高速落下してきた。
まるで地震のように揺れる地表に足がふらつく。魔物は首を屈ませると、威嚇するように大きく口を開けて吠えたける。その咆哮は空気をびりびりと揺らし、振動は身体を突き抜けた。


「来るぞ!」


 


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