Épelons chance | ナノ
48.空を切り、手を掴む
「王女として……いいえ。キムラスカの人間として、できることをやりますわ。行きましょう、バチカルへ。お父様を、説得してみせますわ」
48.空を切り、手を掴む
「ナタリア殿下……!お戻りになるとは……」
ガチャガチャと鎧が石畳を叩く音が駆け巡る。バチカルへ戻ったミカルたちは、隠れることなく正面玄関から街に足を踏み入れた。自分たちは何も悪いことをしたわけではないのだ。この国の王の娘を連れてきただけ。平和条約を結びたいだけ。何も、引けをとって逃げ回る必要はない。真っ直ぐに王城を見つめる眼差しは、等しく決意がこもっていた。
「覚悟は…よろしいのでしょうな」
対峙した兵士は武器を構え、ナタリアへと向ける。怯むことないナタリアの眼差しに、兵士は腕が止まる。一度仕えた者に変わりはない。今尚変わらぬ目の前の王女の佇まいに、彼も動揺しているようだ。
戸惑いの残る兵士の前に、イオンとアニスが前へ進み出て口を開いた。
「わたしはローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」
「……は、はっ!」
「連れのものは等しくわたしの友人であり、ダアトがその身柄を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対し、今後一切の預言を詠まないだろう」
「導師イオンのご命令です。道を開けなさい!」
アニスの高い声が響くと、兵士は戸惑いながらも道を開けた。
「行きましょう。まずは国王を戦乱へとそそのかす者たちに、厳しい処分を与えなければ」
イオンはルークへ顔を向ける。その瞳は年齢とはそぐわずとても凛々しく光る。
小さく頷いたルークは、そのままナタリアへ視線を動かした。
「…ナタリア、行こう。今度こそ、伯父上を説得するんだ」
高く高く位置する王城を見上げて深呼吸する。
父のいる場所を見据え、彼女は大きく「ええ!」と頷いた。
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