Épelons chance | ナノ



46.徐と往くライオン













46.徐と往くライオン











「あらん、坊やたち」


シェリダンに入ると、既に見慣れてしまった漆黒の翼に遭遇した。
お尋ね者の三人組とこうも顔なじみになってしまうのもおかしなものではあるが。

「お、お前っ!漆黒の……」
「よく会うでゲスな。ま、アッシュの旦那に協力してるとあんたたちに関わるんでゲスが…」

彼らはアッシュに金で雇われているらしい。
下手に神託の盾の兵士を使うことができないアッシュは、こうして彼らを雇うことで手足を得ているようだ。盗賊団と言えど、彼らはそこらの兵士よりもよほど腕が立つ。おまけに秘密裏の行動となれば、それこそ彼らの手の内ということだろう。

「さっき、ベルケンドの研究者をここへ運んだところだ」
「アッシュ坊やをあんまりカリカリさせないでねv こっちがとばっちり喰うのよんv」

にっこりと笑いながらも薄目を開き、ノワールは言った。
唖然とした表情で立ち止まるルーク。シェリダンを出ていこうと歩き出したノワールは、彼を軽く押しのけた。彼の裏に控えていたガイもサッと逃げるように身を引くが、彼女の目の前には複雑な表情をしたミカルが道を塞ぐ。

「あの、バチカルでは…」
「退いとくれ。他にも仕事があるんでネ」

話し出そうとしたミカルの言葉を遮って、ノワールは冷たく言い放った。そしてそのまま押し退けて、彼女は街を出て行ってしまう。
不敵に笑うヨークが隣を通り過ぎるとき、ミカルの肩をぽんとひとつ叩いてその後に続く。最後に丸い身体でのしのしとやってきたウルシーが、先に行った女頭領の後ろ姿を見て言った。

「アッシらは盗賊。国の顔ほど有名な嬢ちゃんから、罵声は浴びれど他に戴く言葉はないでゲス」

唖然と目を開いたミカルは、自分が過去に彼らを逮捕しろと目の前で訴えたことを思い出した。国で悪さを働く盗賊、その頭領に頭を下げる等、皇帝の傍に控えるミカルがしていいことではない。それが例え別件だったとしても、その行為で何もかもが変わってしまうのだ。
苦しそうに口篭ったミカルにそれ以上言うことなく、ウルシーもまた横を通り過ぎていった。

「……」

なんだかんだと馴れ合ってしまっている現状がまた、彼女を混乱させる。助けてくれたことに対して礼も言えぬなどと。
俯いてしまったミカルに、ルークは「バチカルでどうしたんだ?」と訊ねた。

「バチカルで拘束されていた時、わたしを助けてくれたのはアッシュと漆黒の翼なの…。それにナタリアを逃がすために市民を扇動してくれたのも、きっと彼らだわ」
「礼はいらない、ってことね。大したものだわ」

ミカルからしてみれば、礼を言われる寸前で注意を受けたような感覚だった。
ティアが見る街の向こう側には、もうその姿は残っていない。皆がその先へ視線をやると、ルークが不意に「なあ、捕まえなくていいのか?」と問うた。
盗賊であることに代わりはないが、今はアッシュの力になっている。さらに言えば、バチカルのこともあり、彼らに助けられているのだ。
捕まえねばならぬ悪党ではあるが、皆には走って追いかけるまでの決定的な気持ちは芽生えてこなかった。


「仕方ありませんねぇ、今回も見逃してあげましょうか」

ジェイドの声が響く。
アッシュと繋がりがあるのは、今は彼ら漆黒の翼の存在だけ。アッシュの動向を把握するために、彼らと馴れ合うことも悪くないと結論づけたのだった。

 


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