Épelons chance | ナノ



46.徐と往くライオン





集会所の中では、右往左往に音機関の一部やら道具やらが飛び交っていた。
対立する『い組』と『め組』の頭であるイエモンとヘンケンが大声で怒鳴り合いながら、まるで子供のような喧嘩をしている。彼らが仲が悪いのは音機関好きの間では有名な話だとガイが話していた。ベルケンドでの企てをヴァンに知られた以上、彼らを逃がすためにここへ連れてきたわけだが、それすらも間違いだったのかと思わせる程の剣幕で延々と言い争っている。付き合いきれない、と集会所の外へ出て行ったタマラとキャシーの姿も知らず、延々と続けているようだ。

宙を舞うスパナをただ唖然と見つめるミカルたちにアストンが気がつくと、次いで二人もこちらを向いた。

「おお!震動周波数の測定器は完成させたぞ」

高らかに言ったヘンケンに対して、アストンは「わしらの力を借りてな」と付け加えた。ムッとしたように、ヘンケンは即座に「道具を借りただけじゃ!」と言い返す。
こんな様子じゃ流石に表の二人組もここから出て行くわけだ、と皆眉を下げた。


「測定器はお預かりします」

歩み出たジェイドがヘンケンから音機関を受け取る。
彼の眼鏡を見て、イエモンが「話は聞いたぞい」と口元に笑みを携えながら切り出した。

「振動数を測定した後は、地核の震動に同じ震動を加えて揺れを打ち消すんじゃな?」
「その役目、わしらシェリダンめ組に任せてくれれば、丈夫な装置を作ってやるぞい」

アストンが言うと、対抗するようにヘンケンが片足を踏み出して言う。

「360度全方位に震動を発生させる精密な演算機は、俺たちベルケンドい組以外には作れないと思うねぇ」

イエモンと目が合うと、またお互いに睨み合ってギギギ…と歯をかみ合わせ始める。
今にもまた言い合いの始まりそうな雰囲気に、ナタリアが痺れをきらしたように声を張り上げた。


「睨み合ってる場合ですの!?このオールドラントに危険が迫っているのに、い組もめ組もありませんわ!」
「そうですよ。皆さんが協力してくだされば、この計画はより完璧になります」

イオンが穏やかに口を開けば、彼らも啀み合いはやめて。

「おじーちゃんたち、いい歳なんだから仲良くしなよぉ」

アニスに言われると、今度は違う意味でお互いを見つめて少しの無言が続いた。


「……わしらが地核の揺れを抑える装置の外側を造る。お前らは…」
「わかっとる!演算機は任せろ」

円満とは程遠い雰囲気ではあるが、イエモンとヘンケンは口をヘの字に引き攣りながら互いに言った。
ふ、と笑ったルークが、嬉しそうに「頼むぜ!『い組』さんに『め組』さん!」と大きく激励すれば、彼らもまた、どこか嬉しそうな様子でドッグへ消えていった。

















茂る緑に囲まれたタタル渓谷。
流れる川がせせらぎを奏でて、染み入る音色がとても心地良い場所である。辺りには動物たちも見え隠れして、まるで無害な野生地とでもいえようか。大きく空気を吸い込めば、緑に生み出された空気がとてもおいしいと感じられた。

ルークとティアは、以前に二人でこの渓谷に足を踏み入れているらしい。
擬似超振動でルークの屋敷から飛ばされてここへ行き着いたようだ。目覚めた時には既に夜遅く、来たことがあっても地形に関してはよくわからないと言う。セフィロトはまず渓谷の探索から始まった。


渓谷の奥地まではそれほど遠くなく、進んで行けばすぐに拓けた場所へやってきた。

辺りは一面に白い花が風に揺れている。
ユリアシティのティアの部屋にあったセレニアの花。何かを守るかのように群生し、隣同士の花弁を撫で合うよう揺れる。
視線を上げれば見える水平線がどこまでも続く。周りは木々に囲まれて、渓流のせせらぎと鳥たちの歌声。ここに立っているだけで身体の芯まで透き通るようだ。


「まあ、綺麗な所ですわね」
「ピクニックには最適の場所だよね。魔物がちょっと厄介だけど、この花のところは魔物もあまり来ないみたいだし」
「ふふ。そうですわね。お弁当を持ってきてのんびり過ごすのには良い所かもしれませんわ」

ナタリアとアニスが頬を上げて話し始めた。嬉しそうに花畑へ近づくと、二人は海を眺めながら花と戯れる。
以前は啀み合ってばかりいた二人が、あんなにも楽しそうに笑い合っている。それを見るミカルも、自然と口元から笑みが溢れた。
 


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