Épelons chance | ナノ



36.私の知らない貴方


白い翼は風に乗ってぐんぐん進む。
アニスの不安とは裏腹に、アルビオールは安定した軌道で速度を上げる。空高く舞う大きな鳥になったように、地上は遥か下に。見える景色もすごいスピードで変わっていく。シェリダンまでタルタロスで行った道のりは、あっという間に飛び越えてしまった。


「!!セントビナーが崩落し始めているわ!」
「街に直接着陸します!」

崩落を始める大地に、ノエルは速度を上げて降り立った。
見え始めている障気の空。ギリギリ間に合ったことに安堵する暇もなく、ミカルたちは残っていた住民たちをアルビオールに乗り込むよう先導した。

セントビナーはディバイディングラインを越え、一気に崩落の速度が増した。それと同時に飛び立ったアルビオールも、瓦礫と一緒に魔界の空を舞う。窓から見える景色は一面紫色の世界。セントビナーの住民たちは、皆泥の海に落ちていく自身の故郷へ目をやっていた。大きくしぶきをあげるが辛うじて浮かんでいる街は、もうすぐ障気の海に飲み込まれてしまうのだろう。
下方へ視線を送る者たちの目は皆暗く、悔しそうに息を吐く。そして、魔界というものを始めて映した瞳には、大小それぞれの戸惑いを映していた。


魔界の様子に落ち着いたマクガヴァン元元帥が住民たちより進み出て、礼と、セントビナーを救えないかとミカルたちへ話を聞きに来た。街を愛す元軍人は、誰よりも大きくその瞳に街の惨状を映しているようだ。
ティアの話によれば、このセントビナーの崩落はホドの状況に似ているらしい。その際、大陸全体が沈むに約一ヶ月かかったそうだ。すぐに沈むというわけではない、だが、状況を打破する策もない。じわりじわりと落ちていく様を見ているしかできないのか。

「…本当になんともならないのかよ」

泥に浮かぶセントビナーを見ながら、ルークが呟いた。目を細めて悔しそうにする表情は、何かと重ねているようで。
それでも、皆から提案が浮かぶことはなかった。

数刻の沈黙が流れ、皆魔界の空から紫の世界に視線を落とした。外殻大地が崩落する異常事態に、これ以上自分たちにできることがあるのか。はたまた、見ているだけしか――ヴァンの勝手にさせるしかないのか。そんな考察が悶々と頭でめぐる中で、ルークが「そうだ、セフィロトは…?」とハッとしたように声を上げる。

「ここが落ちたのは、ヴァン師匠がパッセージリングってのを操作してセフィロトをどうにかしたからだろ。それなら復活させればいいんじゃねーか?」

ルークの提案は確かに正しい。しかし、それを斬ったのはティアだった。

「でもわたしたち、パッセージリングの使い方を知らないわ」

ぐっとこらえてなんとか打開策を。額を手で掴みながら、ルークは唸るように考える。

「じゃあ師匠を問い詰めて…!」
「おいおいルーク、そりゃ無理だろうよ。お前の気持ちも分か……」
「わかんねーよ!ガイにもみんなにも!」

ルークの声が機内を木霊する。ガイの言葉を遮った声。ルークは泣きそうになりながら頭を振るって怒鳴りつけた。

「わかんねぇって!アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだからさ!でも、だから何とかしてーんだよ!こんなことじゃ罪滅ぼしにならないってことぐらい分かってっけど、せめてここの街ぐらい…!」
「ルーク!」

震える声に大きく割って入ったジェイドの声が機内に響く。名を呼ばれてビクリと身体を震わせたのはルークだけではない。

「いい加減にしなさい。焦るだけでは何もできませんよ」

ミカル以外に殆ど向けない叱咤する声に、ルークは力を抜いて俯き、悔しそうに言葉を呑んだ。
誰よりも「助けたい」と想う気持ちは焦りに変わり、現実を見えていないわけではないのに気持ちばかりが先に行ってしまう。ルークが震える瞳で俯いた先に、障気に沈む街があった。











36.私の知らない貴方









 


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