Épelons chance | ナノ



36.私の知らない貴方



行き先はユリアシティ。
セントビナーの人々を疲労の溜まったまま連れ回す訳にもいかない。そして、預言になかった“セントビナーの崩落”が起こってしまった今、魔界で全てを見守って来た“監視者”に協力の要請ができるはずだ。彼らはセフィロトについて我々より遥かに詳しい。アクゼリュスの崩落は預言に記されていて起きたこと。その事実すら皆には愕然とするものではあったが、預言が外れた今となっては、預言にはない更なる崩落を防ぐために力を貸してもらうしかないのだ。

ユリアシティに着けば、ティアの祖父であるテオドーロが出迎えてくれた。崩落という事実に、彼らがここへ来ることを想定していたようだ。ティアが焦燥したような剣幕で訴えれば、彼は手を貸すことをよしとしてくれた。預言から世界の行く末が外れることを未だ恐れているようではあるが。

話し合いの前に、アルビオールから街の住民たちをユリアシティに保護してもらうこととなった。外殻とここの暮らしでは異なることも多い為、慣れるにも時間がかかるだろう。だが、今はどうしようもない。移住区へ案内してくれる市長へ皆続く。
そんな中、老マクガヴァンが一人立ち止まり、背を向けたまま言った。


「ルーク。あまり気落ちするなよ」

浮かない顔をしていたルークは、声をかけられたことにより顔を上げた。

「ジェイドは滅多なことで人を叱ったりはせん。先程のあれも、お前さんを気に入ればこそだ」

え、と呆気にとられ言葉を失ったルークの隣で、ジェイドが「元帥!何を言い出すんですか」と口をはさんだ。しかし、そんなことに気を取られずに老マクガヴァンは続ける。

「年寄りには気に入らん人間を叱ってやる程の時間はない。ジェイド坊やも同じじゃよ」

それは、誰よりもミカルが一番よく知っていること。皆が瞳を何度も瞬きする中で、ミカルの口元はフッと和らぐ。
言うなり、ふさふさの髭を携えて彼は歩いて行ってしまった。

「元帥も何を言い出すのやら」

先に行きますよ、と行って彼も一足先に背中を見せる。小さくなる背を見るルークは、呆けた顔で目をぱちぱちさせた。まるで気にしていないような様子を見せながらも、その場から逃げるような態度にガイが笑う。

「はは。図星らしいぜ。結構可愛いトコあるじゃねぇか、あのおっさんも」
「あはは、ホントだ〜」

アニスも笑う。固く濁ったような空気が和らいで、ミカルもまた同じように笑った。

「ジェイドはああ見えて結構わかりやすいのよ」

その言葉に賛同するのはどうかとして、皆、珍しい一面を垣間見たと、遠くに見える軍人の背に笑みをこぼした。




一行はユリアシティの会議室にそれぞれ席につき、テオドーロとセントビナー救出の糸口を探す。ここまで来たのだ。頼りはテオドーロだけというところ。

テオドーロは唸りながらも“ローレライの鍵”があれば或いは救えるかもしれないと言った。ローレライの剣と宝珠を指して言われるそれは、ユリアがローレライと契約を交わした証――プラネットストームを発生させる時に使ったものだといわれている。
ローレライの剣は第七音素を結集させ、ローレライの宝珠は第七音素を拡散する。鍵そのものも第七音素で構成されていると言われるもの。セフィロトを自在に操る力を持つそれがあれば確かになんとかなるだろう。セフィロトさえ制御出来ればセントビナーを浮かせることも容易い。しかし、今では既にそれは地核に沈められたと伝わっている。この場に存在していないのだからそれを探す時間もない。結局、“ローレライの鍵”という言葉は出てきただけで、可能性は終わってしまった。

再び煮詰まったように唸り声の上がる会議室。頭を抱える中で、テオドーロがひとつの仮説を思いつく。
崩落してしまった以上、元の外殻大地まで浮かせることはできないだろう。だが、液状化した大地に飲み込まれないようにするくらいなら可能ではないかと言うのだ。

セフィロトを制御するパッセージリング。以前アクゼリュスでルークが消してしまったものだが、これは、どのセフィロトにも設置されているらしい。そしてそれは第七音素を使うことで操作ができるという。パッセージリングを操作してセフィロトツリーを復活させることさえ出来れば、泥の海に浮かせることぐらいはできるかもしれない。

第七音素…つまりは、それを扱える人間。彼らの中には、第七音素の使い手が四人もいる。

皆一様に顔を見回して、不安だった面持ちに明かりが灯る。なんとかなるかもしれない。希望が見えてきた。
パッセージリング自体の操作はわからないが、行ってみなければ何もわからない。一行は、セントビナー周辺のセフィロトを制御するパッセージリングを目指し、崩落した街の東へ飛ぶ。

 


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