Épelons chance | ナノ



34.変ずる姿勢に変わる視線



「ごめんなさい。勝手を言っているのはわかっています」
「あなたは自身の職務を放棄するんですか?」
「違います!そうじゃなくて…。わたし、わたしも、少しでも皆さんの役に立ちたいんです!」










34.変ずる姿勢に変わる視線











物があちこちに散乱した部屋。
床には紙くずやらゴミくずやらが落ちて、本棚からは地震が起きたような雪崩現象。部屋を走り回るブウサギ達の餌が散らかり、足の踏み場の通り道ができているこの部屋は、誰が見ても皇帝が使っているものだとは思えないだろう。唯一綺麗に整頓された武器は、壁に掛かって鋼がギラリと輝く。
足を開いて堂々と座る国の皇帝は、早朝にやってきた少女を文句ひとつ言うことなく引き入れた。そしてそのすぐ後に、いつものように青色の軍服に身を包んだ眼鏡の長身が部屋へ現れる。

一言出そうとも重たい雰囲気に、少女が何をしにやってきたのかわかっているようだった。


「…お前は、神託の盾に狙われていると聞いた。グランコクマに居れば守ってやれる」
「仲間が守ってくれると言いました。それに、守られる為に残るなんて…嫌です」

皇帝に歯向かう視線を向けた瞳は、初めて反抗的な色を持つ。

「仲間、ねぇ。言うだけなら簡単だ。聞けば、お前今まで何度も拐われてるらしいな。それはどう説明するんだ?」
「それは完全に私の不注意です。彼らは関係ありません」

後ろで様子を見守る軍人は、ポケットに手を入れたままただ立っている。

「『彼ら』か。お前、まさか惚れた男でもいるんじゃないだろうな」
「…!?ピオニー様、話を逸らさないでちゃんと聞いてください!わたしは…」
「…違うのか。ならまぁ…」
「ピオニー様!」

必死に話す少女の言葉に耳を傾ける、といった仕草があまりにもない目の前の権力者に対し、ふるふると怒り奮え立つ。そんな少女の様子は他所に、ピオニーは細目で扉の赤眼に視線を流した。何も言わず、真紅の瞳はただ笑っている。

「ピオニー様、ジェイドには昨晩お話しました。わたしは、もう少し旅を続けたいんです」
「なぜだ」

じっと見つめられたミカルは、びくりと身体を震わせる。ピオニーのこんな目つきは見たことがない。机に肘をついて顔の前で手を組むと、「理由によっちゃ、外出禁止だ」と低い声で言い放った。言葉が詰まりそうな緊迫感にも、ミカルは引きそうな足を押さえつけて、気を強く口を開く。

「人が傷つくのは見たくないんです。もう…アクゼリュスみたいなことは、嫌。セントビナーが今、そんな状態だと言うのなら、少しでも力になりたいんです。わたしが…わたしなんかが、役に立つかどうかなんて、わからない。わかりませんけど、それでも、助けられる命があるのなら、黙っていることなんてできません」

まっすぐに見たピオニーの瞳は射止められそうで。それでもミカルは引くことができなかった。俯き、小さく呼吸すると、昨晩の夜空を思い出した。

(…ガイ……)

昨日はモヤモヤとして綺麗に心に響かなかった星空。でも、今はその風景が力になってくれる。
先の言葉も嘘ではない。それでも、ミカルにとって一番答えとなっているもの。ピオニーは、まるでそれが何かをわかっているように、ただ黙る。少女は再び顔を上げると、「…わたしは」と瞳に力を込めた。


「色々なことを教えてくれた“みんな”と、もう少し旅がしたいんです」


清々しく言い放つと、ミカルの胸につかえていた柵も消えて、見つめた先の瞳は優しかった。
 


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