Épelons chance | ナノ



34.変ずる姿勢に変わる視線






「ミカルも大佐もおっそ〜い!」
「ごめんなさい、仕事の片付けをしていて…」

日が昇った頃。ホテルの前で落ち合った。完全に日が出ていることに、アニスは手を腰に当てて頬を膨らめる。

「仕事…そうよね。ミカルはこの旅に急遽参加してしまったようなものだものね」

ティアが少し慌てたように「平気なの?」と訊ねる。ミカルは髪を揺らして微笑みを返した。

「では、セントビナーですね。時間もないのでさっさと行きますよー」

歩き出したジェイドに、皆続いていく。
普段と変わらぬ様子に、ガイはその背中に目をやった。


「…なぁ、ジェイド、反対してたんじゃなかったのか?」

小さな声でミカルに言う。ミカルは苦く笑って、彼に首だけを向けた。

「もちろん怒られてしまったわ。でも、ピオニー様が同行を許可してくださったから」
「へぇ。話に聞く限りじゃ、陛下は猛反対しそうな感じだったけどな」
「わたしもそう思ったのだけど…『お前が行きたいって言うのはわかってた』なんて言われてしまって……。お見通しね、やっぱり」

珍しく威圧的な態度をとってはいたが、元々反対する気はなかったのではないかと思う。結局、行きたいとはっきり言えば、いつもみたいに太陽のように笑って自分の気持ちを尊重してくれた。その判断は甘いのか、それとも。

皆が一足先に街を出た時、ミカルは一度振り返って行ってきますとお辞儀をする。
それは、正式に旅立ちを許可してくれた皇帝への敬意と、再度留守にする第二の故郷への旅立ちの挨拶。また、無事に戻ってこられるように。



■skit:親離れ子離れ













セントビナーへの徒歩道は、距離が距離だけに体への負担は大きかった。特に、力を使ったばかりのイオンの体力が気になる。ミカルやアニスは頻繁に顔色を伺いつつ歩く。彼の息が荒くなる前に、無駄かもしれないがなるべく治癒術をかけるようにしていた。

「…少し休憩しようぜ」

先頭を行くルークが、振り返り皆に声をかける。彼はこれといって疲れた様子はなさそうだが、ミカルは度々使う治癒術に疲労が溜まりつつあった。
イオンと二人で顔を見合わせ、小さく息をして頷いた。


「どうしたんだ、ルーク。セントビナーまでもう少しだろ」
「そう…だけどよ。イオンもミカルも疲れてるだろ。それに、ほら、ガイもまだ病み上がりなんだしさ」

木陰で座り込んだミカル達に目を向け、頬を掻きながら言う。聞いたガイは、どこか嬉しそうに「そうか」と赤い髪を叩いた。


「…なんか、ルークってば変わったよね〜」

見張りをすると意気込んで向こう側へ行った背中にアニスが呟く。

「そうですか?おそらく、本質的なところは変わってはいませんよ」
「えぇ。きっと、周りが見えるようになったから、行動に出せるようになっただけね」

ミカルとイオンの言葉に、アニスは「むぅ」と口をとんがらせた。
木陰で休むナタリアやティアも、同じように白い背中を見つめていた。

少しずつ変化する彼の後ろ姿に、皆の視線もまた少しずつ変わっていくようだ。見た目とは違い、まだ七歳であるという少年を、まるで子供の成長を見守るかのように。
見つめた先には、もうかつての彼は掠れていた。



 


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