Épelons chance | ナノ



51.静けさはざわめきを




――ドォン……


遠くの方で鳴り響いた。

広いタルタロスの艦内を走り回る最中、動力室とは別の場所で爆発音が鳴る。しかし、それも一度や二度ではない。まるでミカルたちを弄ぶかのように、四方八方から爆発は起こる。扉が壊れる程度の小規模な爆音、定期的に起こるそれのせいで相手がどこに潜んでいるかわからない。きっとこの地核に到着するまでの間、小型の爆弾をあちこちに設置していたのだろう。
侵入者の思惑通り、ミカルはその足先がわからずに翻弄されてしまっていた。


「――時間が、ないのに…っ」

焦る思考が更に考えを鈍らせる。これだけ探しているのに爆発が続いているということは、恐らく他の仲間もまだ見つけていないのだろう。
いつもより早くあがった息に足が止まり、爆発によって部屋がむき出しになっている壁に手をついた。

「…はぁ……はっ……」

何故だろう。やはり、地核に入ってから息苦しい。
ナタリアの言うように圧迫感はあるが、それとは違って実際に呼吸がしづらく感じている。地下に来すぎて空気が薄くなっているのだろうか。およそ人間が住む場所ではないここが、生命を生きさせる機能を果たしているかどうかも怪しい。

「早く……見つけ、ないと……ぅ、ッ…」

全速力で走っていたわけではないのに、身体は疲れていないのに、胸が痛い。先ほどよりも薄くなる呼吸は、どんどん強くなっていっているようだ。

「……はぁ、は……少し、落ち着こう…」


整えるように静かに呼吸しても、それが治ることはない。だが、今はそれよりも先に侵入者が優先だ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
手をつけた壁にそっと目を向けると、既に作動した小型の音機関が抉れた扉の傍に落ちていた。ミカルには音機関はよくわからないが、残骸を見ると時限式だということがなんとなくわかる。

なぜ、こんな回りくどいことを?

何故わざわざ地核へ突入したこの時まで待っていたのか。何故こんな時間稼ぎのような隠れんぼをしているのか。
ミカルはハッと顔を上げた。


(――そうよ、相手の狙いがわたしたちの妨害をすることなら…)

何故もっと早く気がつかなかったのだろう。そう唇を噛み締めて、今まで走ってきた廊下を再び戻りだした。
皆はもう気がついているだろうか。ジェイドは気づいているだろうか。ガイの方はうまくいっているだろうか。そんなことを不安と共に頭によぎらせながら明かりのない廊下を走る。丸窓から地核の光が入って、その道は海の中にいるかの如く浮遊感が感じられた。幻想的なのに、どこか不安で、気持ちの悪い景色。


――そんなことを思った矢先、ミカルの足は再び止まった。
力が抜けたように膝から落ちると、彼女は胸を掴んでより一層呼吸を荒くした。


「…ぅ、 は……!はぁ、はぁッ…!」

今まで味わったことのない呼吸困難。倒れまいと咄嗟に壁を掴んだ腕が身体を支えた。だが、その腕も小刻みに震えて力がうまく入らない。
ここに来てようやく、何か自分の身体に異変が起きているのだと理解した。もしかしたら爆発物の中に毒薬があったのかもしれない。だとすれば、皆に伝えなくては……

しかし、自分の思考とは裏腹に身体は動いてくれない。というよりは、動かせない。徐々に痛みを増す胸を抑える腕と、苦しくもがく喉にだけが力が入る。
頬を流れ落ちた汗が顎を伝って冷たい床へ落ちた時、背後から「ミカル!」と急いた足音が駆け寄ってきた。

「おい!大丈夫かミカル!」
「……ル…ーク……っ、」
「誰だ!神託の盾にやられたのか!?」

焦る瞳は周囲に警戒しながら腰の剣に手をかけた。しかし、ミカルは虚ろな瞳で小さく首を横に振った。「なら、一体……」彼が次の質問を口にしようとしたとき、その言葉は止まる。同時に、彼の目は不可解なものを見るようにミカルとその周囲を見渡した。


「…なんだ?これ…。なんか 光ってねぇか……?」


薄くしかできない呼吸に苦しむミカルは、その言葉にルークと視線を合わせた。怪訝な表情で向けた瞼は大きく漆黒を開いて、目の前の彼よりもその現象を奇妙なものとして捉えた。

「……これは、音…素……」

目の前、否、ミカルの周りには音素がチラチラと光っては消え、囲む。濃度の高いものではなければ目にすることなどできないソレが、何故こんな小さな粒で目にすることが出来るのか。大気中に、明らかに成分の違う音素が漂っているのが感じなくてもわかる。

「…な、なぁ、ミカル……それ」

ルークが眉を寄せて、不安そうな顔である場所を指を差した。その表情に釣られて、恐る恐るその先へゆっくりと首を動かすと、それはミカルの掴んだ胸の内。苦しくて押さえ込んだ腕の間から、大気中に漂うものと同じ光が漏れ出ていた。
 


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