Épelons chance | ナノ



48.空を切り、手を掴む








「そうか、ようやくキムラスカが会談をする気になったか」




一行はグランコクマへやってきた。
キムラスカがマルクトとの和平を結ぶと決まったならば、元よりそれを希望していたピオニー九世陛下へ報告と、降下の話も一気に進めてしまいたい。パッセージリングがいつまで保つかがわからない上、ヴァンによる大陸の消滅の危険性もあるのだ。今は少しでも時間が惜しい。
グランコクマの宮殿にある玉座で、ピオニーが待ちきれたと言わんばかりの表情で出迎えてくれた。ジェイドとミカルはピオニーの傍らに控えて、ルークとナタリア、そして他の皆を使徒として話を進める。


「キムラスカ・ランバルディア王国を代表してお願いします。我が国の狼藉をお許しください。そしてどうか改めて平和条約の…」
「ちょっと待って、ナタリア。あなた、自分の立場を忘れていない?」

ナタリアが先頭を切って話しだしたのを、ミカルが止める。
隣に立ったルークと共に、二人は不思議そうな顔をしてミカルに目を向けた。すると、ピオニーが口を開く。

「あなたがそう言っては、キムラスカ王国が頭を下げたことになる。ナイス判断だな、ミカル」
「…こういう時くらい止めてくれてもいいのではないの、ジェイド」

呆れたように息を吐き出しながら、隣に立つ軍人を見やる。すると彼は悪びれなく「おや、ばれてましたか」とニッコリと笑って返した。
ナタリアもルークもキムラスカの王族であり、その国の名を背負っている人間。純粋すぎる二人の行動は真っ直ぐで、人としては見習うべき程ではあるところだが、ここで違えてしまっては二つの国の均衡が再びおかしくなってしまう。
ふざけているのか本気なのか、どちらとも取れぬジェイドの返しを受け取って、ピオニーは『ルグニカ平野戦の終戦会議』という名目で話を進めることを提案した。

「本来なら、会談する場所はダアトなのでしょうが…」
「今はマズイですね。モースの息のかかっていない場所が望ましいです」

バチカルでの謁見の後、いつの間にかモースは姿を消していた。聞けばダアトに引き上げたようだったが、もしかしたらそれを見越した上で戻ったのかもしれない。ただでさえ重要な会談なのだ。ダアトに行けば、モースは全力でそれを阻止しにかかってくるだろう。


「ユリアシティはどうかな、ティア」

不意にルークがティアへ顔を向けた。
ティアもまさか自分に振られると思っておらず、「え?」と口をついて出た。

「でも魔界よ?いいの?」
「むしろ魔界の状況を知ってもらった方がいいよ。外殻を降ろす先は、魔界なんだから」

な、とジェイドへ目をやると、彼も「悪いくないですね」と頷く。

「では陛下、魔界の街へご足労いただきますよ」

厭味な程にさわやかな笑顔を向けると、ピオニーは「ケテルブルクに軟禁されてたことを考えりゃ、どこも天国だぜ」と同調してくれた。


「それならば、飛行譜石が必要ですね。陛下たちをアラミス湧水洞へお連れするわけにもいきませんし…」

ミカルが言う。大人数を連れて魔物の出る洞窟を通る訳にはいかないし、ましてやそれが国の王族ばかりを連れてのこととなれば大問題だ。
飛行譜石はダアトでディストに取り上げられたのだから、まずはディストを探さなければいけない。それならば、ダアトに戻って詠師に確認するのが一番手っ取り早いという話になった。

「ダアトか…。モースも戻ってるんだろ。危険だな」
「…そうですね。ミカル、万が一に備えてあなたはここに残りなさい」
「えっ?」

パッと顔を向けたのはミカルだけではなく、皆同じように首をかしげてジェイドを見た。

「神託の盾はヴァンの手の内でもありますから。ベルケンドでの話を忘れたとは言わせませんよ」
「あ……」

まだ記憶に新しい、最後にヴァンと会ったあの部屋の言葉。

『相いれぬならば、わたしはお前を消さねばなるまい』

それは、確実にミカルに向けて言われていた。

「飛行譜石を取り戻したらグランコクマに迎えに来ます。どのみち、会談にミカルを並ばせるつもりでしょう?陛下」
「お!よーくわかったな」

皇帝は嬉しそうに「さすがジェイド」と白い歯をむき出して笑う。
ミカルがなかなか整理がつかずに瞬きを繰り返していると、ジェイドは肩を叩いて周りに聞こえぬ程小さく言った。

「…陛下と話したいことも、あるでしょう」
「……!」

なんでもお見通しの友人は、見上げた先でレンズを繋ぐ橋を押し上げた。
振り返れば、大好きな兄のような存在が何も分からずただ微笑んでいる。

やっと戻ってきたグランコクマ。そう長く空けていたわけではないけれど、前に戻った時からいろんなことがありすぎた。
言いたいことや、話も沢山ある。でもそれ以前に、話さなければならないと思うこと、聞かなくてはならないことがミカルには生まれすぎてしまった。


「みんな、よろしくね」


笑顔で言った言葉には、何か別の気持ちも詰まっていたのかもしれない。

■skit:おふざけメーカー調子良好!

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