Épelons chance | ナノ



48.空を切り、手を掴む





王城を出て、一行は街の宿をとった。
ルークも公爵の息子ではあるものの、公爵も王の側に回っている。戻ったところで反感を持たれるだけだ。なるべく諍いは避けておこうと、彼らは商業地へ客車で降りて行く。ナタリアもルークも、こんな気持ちで昇降機を何度も使うことになるとは思いもしなかっただろう。ナタリアは小さくなっていく城を最後まで見上げていた。




「ミカル。陛下に渡した書状ってのは?」

部屋に集まって、皆緊迫したムードを保ちつつひと段落つけていると、不意にガイが口を開いた。彼の言葉に反応して、アニスも「そうだよ。いつの間にそんなもの…」と口を揃える。

「あぁ、あれは…。わたしたちが今までしてきた経過と、外殻大地降下の問題点をお渡ししたの」
「問題点?」

ルークが首を傾げたが、すぐにティアが「障気のことね」と口を開く。ミカルが頷くと、ルークもアニスもハッと息を吸った。
そもそも外殻大地が作られたのは、不明確に発生し続ける障気から逃れる為。タルタロスを使って地核の振動を調和させて魔界大地の液状化を食い止める。そして外殻をそこへ降下させることができたとしても、結局のところ、障気の問題は解決しない。原因不明の障気の中和ができない限りは、大地に住まう生き物たちは徐々にその毒に犯され続け、最終的には滅亡してしまうだろう。

「障気に関しては、ベルケンドやシェリダンだけではなくて、グランコクマの譜術研究、それにユリアシティとも協力しなければ、解決するのは難しいと思うわ」
「つまるところ、インゴベルト王のお返事にかかっている、というわけです」

キムラスカとマルクトが手を組まない限りは、そんな協力も実現しない。ジェイドの脅し文句に加え、世界の危機を目に見えるもので見せつけることで、その決断を促すことができれば、とミカルは踏んでいた。


「俺は、伯父上を…信じてる」


ルークはナタリアと目を合わせて言う。交わる視線は、どちらも強い意志を持っていた。


「でも明日、もしも王が強行策に出てきたら、どうするつもり?」
「その時はわたくしが城に残り説得します。命をかけて」

ティアの懸念を振り払うように、ナタリアはベッドから立ち上がった。その言葉に、皆ギョッとして彼女に視線を集める。

「ナタリア……!」
「愚かでしたわ、わたくし。アクゼリュスや戦争の前線へ行き、苦しんでいる人々を助けることが、わたくしの仕事だと思っていました」

立ち上がった場所からは、窓の遥か向こう側に城が見える。ナタリアは手を握って、「……でも、違いましたのね」とそれを見上げた。

「お父様のお傍で、お父様が誤った道に進むのを諌めることが、わたくしのなすべきことだったのですわ」
「…ナタリア……。やっぱりあなたはこの国の王女なのね」

血統なんて関係ない。
こんなに国を、父を思う娘を、逆賊などと誰が言えようか。


「そうありたい…と、思いますわ。心から」


この国が大好きですから、と、彼女はまるで祈るように瞼を閉じた。


 


[ 3/5 ]
[*prev] [next#]
-->
目次/TOP

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -