Épelons chance | ナノ



46.徐と往くライオン


ルークとティアが岩の近くで話しているのを横目に、ミカルは顔を上げる。一面に咲いた花を避けてゆっくりと足を踏み出して、海を一望した。
風が木の間を吹き抜けると、それに合わせて彼女の髪も舞い上がる。まっすぐ瞳を向けた先には、空に譜石が浮かんでいた。

(預言のない世界……)

ミカルの中では、まだそれは悶々と陰りになって積り続けていた。
レプリカは預言に詠まれぬ異端のモノ。預言を持つ人間を食らって存在してしまった、この世界に望まれぬ命。


――預言に存在しないモノがあったら、どうする?


(シンクのあの言葉はレプリカを指すものだった)

『預言にない存在は疎まれ、いらないと言われる。じゃあ、ソレは一体何のためにあるんだろうね』
彼の冷静な声色は今でもはっきりと思い出せる。冷静の中に、ひどく悲しく、憤りを込めた音が混じっていた。

(……どうして?)

ふと疑問が蘇る。
ここ最近の彼は、顔を合わせる度ヴァンの下へつくようにミカルの手をいざなおうとしていた。
だがそれもまたおかしな話。深く考えずとも自分は敵で、また、出会った始めの頃は加減なく手を出されていた。
自分の持つ“何か”に原因があり、それをヴァンが狙っている為にシンクもヴァン側へと誘っているのだと思っていたが……

シンクの今までの態度、言動、その変わり方。
また、ミカルがレプリカだとわかった時の、その反応。
全てを思い返せば、ひとつの仮説が生まれてくる。

(シンク。もしかして、あなたは……)


見上げた視界の中で、深緑の木々が風に揺れた。
強い風が草を巻き上げると、それと同時に木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたく。追って振り返ると、ルークがこちらへ手を振っていた。いつの間にか皆集まって、ミカルに顔を向けている。


「ミカル、ジェイドが脇道を見つけたようです」

彼と同じ、緑を携えた少年の優しい声が木霊した。

















川を渡って道なりに進んでいく。上流へ昇るように歩いているからか、やけに高い場所まで登ってきていた。
渓谷はどこまでも緑が続き、草も木も生い茂って、空気はとても澄んでいる。

暫く進むと木々が途切れ、少し拓けている場所に出てきた。崖になった向こう側には、平野に掛かる橋が小さく見える。


「あ〜〜〜〜っ!?」


ティアを先頭に歩く一行は、いきなり発せられたアニスの大声でその足を止めた。

「どうしたの、アニス」
「あれは、幻の『青色ゴルゴンホド揚羽』!」

驚いたティアが声をかけるも束の間、アニスは叫びながら走り出す。「捕まえたら、一匹辺り400万ガルド!!」そう指差す方向には、鮮やかな青をひらめかせて宙を漂う一匹の蝶々が。既に彼女の目にはそれしか見えていないようで、一体どうやって捕まえるつもりなのか、両手を広げてひらひらと舞う蝶をただ追いかけていた。

「ア、アニスったら…」

彼女の金銭レーダーが反応してしまった、とミカルは眉を下げて笑った。一見すれば、蝶を追いかけて遊ぶ子供にしか見えない光景を、不謹慎にも微笑ましいと思って見守る。
とは言っても、ここは崖際の道。少し心配になったのか、「おーい、アニス。転ぶぞ」と声を掛けながらガイがティアと共に追いかけて行った。


「あのねっ!わたしのこと子供扱いするのはやめてくれないかなぁ」

ガイの言葉に瞬時に振り返り、頬を膨らめてアニスが反論しようとした。――その時。


「きゃうっ!?」


地面が大きく揺れた。思わずふらつき、倒れそうになったミカルを青い手袋が抱きとめる。
しかし、振り返る動作でバランスのとれていなかったアニスは、地震の激しい揺れで身体が崖から宙に投げ出されてしまった。



「「アニス!」」


 


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