Épelons chance | ナノ



34.変ずる姿勢に変わる視線


地響きと共にセントビナーが大きく揺れる。そして、地盤の沈みをきっかけに、街全体が傾いた。


「街が沈むぞ!」


激しい攻防の衝撃の所為で、辛うじて保っていた街のバランスが崩されたのか、徐々に街が沈んでいく。門の側にいた仲間たちは全員外にいるが、まだ避難は途中だった。落ちていく街には、残された人々が下からこちらを見上げて驚愕の顔を向けている。


「マクガヴァンさん!」


その中には、率先して指示を出し、誘導を行っていた老マクガヴァンと、その息子の若き将軍の姿も残っている。ルークが顔をしかめて「くそ!」という嘆きと共に沈みゆく地盤に走る。なんとか助けたいと思うあまり、ルークはそこから足を踏み出そうとしていた。


「待ってルーク!それならわたしが飛び降りて、譜歌を歌えば…!」

ルークの腕を繋ぎ留めティアが叫ぶ。そして同じように行き急ごうとする彼女を、今度はジェイドが止めた。

「待ちなさい。まだ相当数の住人が取り残されています。あなたの譜歌で全員を護るのはさすがに難しい。もっと確実な方法を考えましょう」

ジェイドに静されて、ティアもまた表情を歪めた。下から、こちらは気にせず街の皆を頼む、と老マクガヴァンの声が聴こえる。悔しさに拳を振り上げたルークは、「どうにかできないのか!」と吐き捨てた。


「…空を飛べればいいのにね」

もうすでに手が届かない街を見下ろして、アニスが悲しそうに呟く。それを受け取ったガイは、顎へ手をつけて記憶を巡らせた。

「そういえばシェリダンで飛行実験をやってるって話を聞いたな」
「飛行実験?それは一体?」

訊ねたミカルに、ガイは振り返り説明を始めた。
ローレライ教団が発掘した、古代の浮遊機関。今より遥か昔、始祖ユリアが生きた時代は今よりも文明が発達していたという。そしてその頃、その浮遊機関を取り付けることで、譜業で空を飛んでいたと噂されているようだ。音機関が何よりも好きな彼にとっては、同じマニア同士で話題になっていたと一言に話す。
譜業に長けたキムラスカと技術的な協力をすることになった書類に、教団の最高責任者であるイオンは了承印を押したと頷く。もう飛行実験は始まっているはずだ。
説明を終えたところで、ルークが思い立ったように「それだ!」と表情を明るくした。


「その飛行実験に使ってる奴を借りてこよう!急げばマクガヴァンさん達を助けられるかもしれない!」

救助できるかもしれないという道が拓けて、嬉しそうに目配せするルークに、ジェイドの浮かない顔が止まる。

「しかし間に合いますか?アクゼリュスとは状況が違うようですが、それでも……」


一気に崩落したアクセリュスとは違い、セントビナーは沈んではいるもののそこへ滞在している。先程も沈みはしたものの、亀裂が生じて地盤沈下が始まってからしばらくは経っているし、今も落ちるのは止まり、その位置で安定しているようにも見受けられる。
だが、シェリダンはキムラスカ領土。そもそも大陸が違うし、海を渡って遥か西に位置する場所だ。地図上では端と端になる。今から行って、戻ってくるまでにセントビナーが持ちこたえてくれるかどうか。ジェイドの懸念はそこにあった。

「兄の話では、ホドの崩落にはかなりの日数がかかったそうです。魔界と外殻大地の間にはディバイディングラインという力場があって、そこを超えた直後、急速に落下速度が上がるとか……」

元々魔界に住まう前は、ホドが故郷だったというティア。十六年前の戦争で消滅したその地は、消滅ではなく崩落したのだと言っていた。その時はまだ母親の腹の中にいたティアは自身ではわからないが、譜歌を歌って助かったヴァンから、当時の様子を聞いて育ったようだ。

当事者の話でさらに信憑性が増した話に、ルークは更に強く意気込みを強くした。


「やれるだけやってみよう!何もしないよりはマシだろ!」


力強い叫び声に、仲間たちは立ち上がり大きく頷く。
かつて見た彼はどこへやら。その変わり様は、皆の意識を強くしていくようだった。


崩落の魔の手から人々を助ける為に、次はシェリダンへ。

一行は、船を求めてローテルロー橋へ戻る――


■skit:ガイ様監視令?

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