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34.変ずる姿勢に変わる視線




道中、アクゼリュスで見たほどではないが、地面に亀裂が入っている道もあった。アクゼリュスのセフィロトツリーがない影響なのだろう。徐々に大地が悲鳴をあげ始めているようで、すれ違う人が「ルグニカ平野に大穴が空いた」と言っていたのも聞いた。あまり時間はないようである。



セントビナーへ入ると、いつも活気だっていた街が不穏な空気に包まれていた。
街のあちこちに亀裂が入り、街を包み込むように陥没し始めている。街の人たちは皆表情を暗くして口数も少ない。あちこちで聴こえる会話には、アクゼリュスの崩落、キムラスカの脅威、セントビナーのこれから等、どれも崩落に関するものばかりが含まれていた。住民たちの不安が街を包み込んで、まるで別の街の様な静けさだ。


マルクト軍基地に入ると、老人と若人の言い争う声が聞こえてきた。

「ですから父上、カイツールを突破された今、軍がこの街を離れる訳にはいかんのです」
「しかし民間人だけでも逃さんと、地盤沈下でアクゼリュスの二の舞じゃ!」

聞いたことのあるその声は、以前遣いでここに来た時に会ったマクガヴァン元元帥のものだった。老人と対面して声を上げる若人は、どこか似た顔つきをしている。彼が、以前言っていたマルクト軍で活躍する息子なのだろう。

「皇帝陛下のご命令がなければ、我々は動けません!」

大きく声を上げた若人に対して、扉を空けたルークは「ピオニー皇帝の命令なら出たぜ!」と叫びながら駆け寄る。その声に、対峙した二人は勢い良くこちらへ顔を向けた。ルークの向こうへ立つ軍人に視線が行くと、今までの者たちと同様に驚きの表情で息を飲む。

「カーティス大佐!?生きておられたか!」
「おぉ、姫さんも!ワシのところから出た後消息を絶ったと聞いておった。無事で何よりじゃ…!」

ミカルの「心配をおかけしました」という言葉に大きな髭を揺らしながら息を吐くと、「して、陛下はなんと?」とジェイドへ目を向けた。

「民間人をエンゲーブ方面へ非難させるようにとのことです」
「しかし、それではこの街の守りが…」
「何言ってるんだ。この辺、崩落が始まってんだろ!」

渋る若人に対して、ルークは表情を険しくして追い立てる。

「街道の途中でわたしの軍が民間人の輸送を引き受けます。駐留軍は民間人移送後、西へ進み、東ルグニカ平野でノルドハイム将軍旗下へ加わってください」

ジェイドが静かに続けると、彼は少しだけ悔しそうに、「了解した。…セントビナーは放棄するということだな」と呟いた。その言葉を聞いて、老マクガヴァンはさっと足を動かす。

「よし。ワシは街の皆にこの話を伝えてくる」
「マクガヴァンさん、わたくしも参りますわ!」

出て行く老人に、黒髪が続く。父と同じように息子も素早く動き出すと、仲間たちも動き出した。






老マクガヴァンの声かけにより、街の住民たちは避難を始める。そこへ救助へ来た者たち、そして駐留しているマルクト軍も加わり避難活動を開始した。首都ほどではなくとも大都市であることに変わりはない。その住民すべてを街の外まで誘導しなければならないのだ。


「流石に、街の全員を移動させるのは骨が折れますね」

その人の量に圧倒されて、ジェイドが眼鏡を押し上げる。トクナガに乗りながら道を標すアニスが、上から「きちんと説明して誘導しないと、大混乱になっちゃうかも〜」と息を吐いた。

「残っている人がいないように、ちゃんと隅々まで探さないとな。移動は女と子供優先でいいのか?あ、老人もか」

一度街の外まで行ったルークが走って戻ってきて、ジェイドに確認するように言う。ジェイドは「ええ。それでお願いします」と頷いた。

「じゃあ馬車も要るかな?怪我してる人がいたら、馬車はそっちで使った方がいいか?」
「そうですね」
「よし、じゃあ俺、あっち見てくるよ!」

笑顔で意気込むと、ルークは人混みに紛れて駆けていった。
一連の受け答えをしたジェイドはその背中に目を向け、ふむ、と顎へ手をやる。それを見ていたアニスもまた、考えるように上からルークの姿を目で追った。

「わたしは楽でよいのですが、少々戸惑いますね…」
「アクゼリュスの時とは随分違いますね〜」

以前も同じように救助活動をした。だが、その時の彼と言えば、ただ立って、苦しむ人々に目すら向けようとしなかったのだ。誰よりも率先して行動する姿を見ると、到底同じ人物だとは思えない。

「彼の『変わりたい』という気持ちは、本物だったのでしょう」
「ちょ〜〜〜っと、認めてやってもいいかな…。熱血バカっぽいけど」
「基本的には、やはりバカなんでしょう」

そう言う表情には、どちらにも笑みが零れていた。
 


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