02




一気に会場が唖然と静寂に包まれる、もはや絶句。競りにならない金額を最初から出されては、言葉を失うのも当然だ。
そうして誰もがどうすることもできずに落札を告げるアナウンスが流れようとした時。


「ああああああああ!!」

――ドカァァン!


突如会場に突っ込んできた謎の影。
…まぁ一体誰なのかは大方予想できるけどさ。


「ルフィ!」

「何だお前、もっとうまく着地しろよ!」

「できるか!トビウオだぞ、おめーが突っ込めっつったんだろれ?」

「だからとにかく乗れって…言うがお前ら、サニー号に戻るのに何をそんなに急いでんだよ…ここどこだ?」

「ゾロも!?」

「ん!?お前ら…。」

「あっ!ケイミー!」


見つけた途端に走り出す船長…ってちょっと待て待て。何も考えずに進むバカをタコと共に全力で止めに入った。


『待て待てあんた何考えてんのさ。』

「何する気だよ!!」

「何って、ケイミーがあそこに!!」


アホかこいつ、タコの言う通り爆薬首輪がはめられているから連れ出せるわけないのに。
いいから落ち着けと宥めようとするが引っ張られるのだ。力いっぱい走るな。


「きゃああああ!」

「え…あ、」

『………何、』


なにやら悲鳴が上がって辺りを見回すと観客の視線の先にはタコが。
いまいち事態を把握できないまま、船長の片手を掴んでいるので強く引っ張られる。ああもう馬鹿力強すぎるんだけど!


『ちょっと待てって言ってんでしょ。』

「今助けるぞケイミー!」

「魚人よ〜!気持ち悪い〜!」

「何で魚人が陸にいるんだよ!」

「やだもー何この肌の色!?何その腕の数…!?」

「こわいわ!!存在がこわい!!近寄らないでー!!」

「海へ帰れ化け物ー!!」

『っ、』


――差別。
こんなものがあるから――、そう嘲笑と共に吐き出されたキッドの言葉が思い出される。クズが世界を支配するからクズが生まれる。
俺の兄さんもそのクズに殺されたんだよね、まったくその通りだと何だかあまりの馬鹿馬鹿しさに不謹慎ながらも今さら思い出して笑えるてくる。
どうやって止めようかと考えていたら、その瞬間に背後から二発の銃声が響いた。
ゆっくりと、じわりと胸の内に嫌な予感が広がるのを感じながらも振り返ると、血に染まりながら倒れ伏す彼の姿、銃口を向けているのは天竜人。


『………。』


あんたが大人しく堪えてタイミングを待てば彼は撃たれなかっただろうに、その言葉を飲み込む。
そんな皮肉より先に俺の中に渦巻いたのは、あのクズに対する殺意と憤怒。
最近どうにも身内以外にも沸点低くて困るな。意外にも客観的に怒りを覚えた。


「むふふふむふーんむふーん♪当たったえ〜っ!魚人を仕留めたえ〜!」


今の俺にはまさしく火に油。ああ、ヘドが出る。
こういう奴を見ると、兄さんのことを思い出すのだ。


「お父上様!ご覧下さい!魚人を捕まえましたえ!自分で捕ったからこれタダだえ?得したえー、魚人の奴隷がタダだえ〜!タ〜ダ〜タ〜ダ〜タコがタダ〜!」


なかなかの挑発に、こめかみがピキリと疼いた。
我慢しなくていいかな、こいつ殺せば落札はなかったことになるかな、クズ一人殺しても誰も咎めはしないだろう。
俺が刀の柄を握ったと同時に、クズがこちらを見てはっとした顔になる。


「…おまえ…どっかで見たぞえ?」

『……。』

「んむむ〜…、あっ、今日無礼を働いた奴!何で生きているんだえ?」

『……はは、あんたが銃の扱い下手くそだったからでしょ。そんなことも分からないなんて、頭大丈夫?』

「っ貴様!下々の分際で生意気だえ!」


ガチャリと銃を向けてきたそいつに向かって、俺も応戦しようとしたら船長からストップのサイン。
そのまま怒り心頭な船長は天竜人に向かっていくもタコに止められ、そのまま彼の息絶え絶えな言葉を聞く。
償いたくて――、その純粋な一心を踏みにじられたのだ、怒らないわけがないだろう。
その結果、


「やめろムギ!!おめェらもただじゃ済まねェぞ!!」

「お前もムカつくえ〜!!」


銃をおもちゃのように撃ちまくる天竜人の顔面へ、船長の重い右ストレートが襲いかかったのである。


あまりにも傲慢

(どいつもこいつも)(欲深い奴等)(俺も含めて)



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