07




カウンターに転じられない以上、こんな避けるだけの時間は無駄にしかならない。空を切った拳の上に飛び乗り、そのまま彼の頭上を超えて刀の方へ駆け出す。
刀がある一帯は炎が一際大きくうねっており、目の前の炎を武装色の空蹴りで消してやり、汗をじっとりとかいた手で刀を掴めば、後ろだというどこからか声がしてすぐさま振り向いた。


『げ、』


目の前すべてが岩。バカみたいな大きさの岩の塊がこちらに豪速球ばりに投擲されたらしく、その場でなんとか一歩踏み込み、刀をまっすぐ突き出してやれば、切先が入った部分からバキバキと亀裂が入って瓦解。崩れ落ちる岩の向こう側、目を凝らした先は土煙と炎でうまく見通せない。
見ようとすればするほど炎が目に入り、乾いた空気のせいで喉が引き攣る。汗が滴り、顎から伝い落ちる感覚。口の中にまだ広がる血の嫌な味と血の匂い。時々炎が弾ける音が聞こえる。炎に気を取られるせいか、その他に対して五感がじわじわと鈍くなっていくような感じが、あの時の記憶の情景とこの場の境目を滲ませていく。
そして、荒く息を吐きながら目を細めた瞬間、向こう側の人影が、不意に霧が晴れたように姿を現し、それはかつての兄さんを目にした瞬間、周りの時間どころか自分の呼吸すら止まる感覚に襲われた。
いや、そんなはずはないのに。それでもあなたを思い出させるのは、俺がどうしようもなく零崎である証拠なのか。
目が逸らせない。心臓の鼓動の音が嫌に大きく響いて、首を小さく横に振ることしかできない。


「嘉識!!!」


ルフィの怒号のような声が現実に引き戻す。はっ、と息を呑めばもちろんそこに兄さんはいないし人影すらなかった。
トんでた、と自覚するのにそれほどかからず。しかしどのくらい、そう思った瞬間に一気に刀をもつ逆側、左側にさっきよりも洒落にならないくらいの衝撃に、意識が飛びかける。
声にならないどころか、息ができない。体の奥底からミシミシバキバキボキボキと骨が砕ける音が聞こえ、脇腹が熱くて熱くて。覇気なんてものは頭になかったもので、久しぶりにもろにもらってしまった。視界がさっきよりもさらに白黒に点滅して脳に危険信号を送っている。この痛みは、肋骨と腰骨あたりだろうか。
憮然とした様子でよそ見をしてるんじゃねえと言われた。いや、したつもりはないんだけどな。
脇腹に入った正拳突き目掛けて右手にまだ持っていた刀を振り下ろすが、難なく避けられてしまい、それどころかさらに間髪入れず乱打が襲いかかってきた。
なんとかその場に踏みとどまって刀で防いだり避けたりするものの正直ほんとにおなかが痛くて痛くて立っているだけで精一杯。


『――なんてッ、壊さない理由にはならないけど!』

「っ!」


拳を受け止めた刀越しに見えたそのガキの表情が笑っていた。
それを目にした途端、久しく味わっていなかった得体の知れない気味の悪い感覚が背中をぞっとさせ、直感的に後ろに跳んだ瞬間、正面の首筋にピリッとした痛みが走る。思わず手を当てると己の体に流れていた赤い血が付着しており、正面のガキはいつのまにか横一線に刀を振った後の体勢になっていることから、首を狙われたのだと理解したら自分の口角が上がるのがわかった。楽しませてくれるじゃねぇか。
すぐさま反撃の拳を叩き込めば、刀で防いだその体もろとも軽く吹っ飛んでいき、そのまま起き上がる様子が見えねえ。面白いところだったが、残念ながらどうやらガキの体力がもう終わりかけらしい。
久々のウォーミングアップにしちゃ出来が良すぎたなという感想を抱くバレットは、そろそろ次のフェーズに進むため、所定の位置に戻って最悪の世代面々を見渡した。


吐き気と追想録
(記憶が境界を超えていく)





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