06




待てという制止の言葉すら言わせず、赤色はその言葉を残して塀を軽々と越えながらその場から消えた。俺の刀の破片は何気にすべて持っていかれたし。
あれは謂わば零崎嘉識の亡骸だからまあ仕事の証拠品になるのだろう。
しかし嵐のようだった、さすが疾風怒濤と言われるだけあるなと思いながら地べたに這う姿のまま動かない。
だって俺のことなんてとっくにもはや誰も見てなくて、喧騒が遠く聞こえる。嗚呼、誰か処刑されてだれかが邪魔してすったもんだあったからか。
まあ、かと言え、そんな状況でも動く気が起きずに呆然と上体を起こした状態で刀があった場所を眺める。


『なんでかな、すっきり、した。』


無意識に言葉が口からこぼれた。


「貴様も麦わらの一味だな!」

「嘉識!うしろ!」


うつ伏せになっているその背後から忍者がクナイを持って襲いかかってくる。要するに誰か1人でも一味が捕まれば狙いはわかるからなのだろうと察する。
彼らにとって、その誰かは、誰でも良かったのだ。となれば、俺は格好の的。感傷に浸ることもできないなんて。
こんな無様を晒した俺を助けてくれようとナミやサンジたちが手を伸ばすも救出が間に合わない中、自力で右腕を地に着いて側転の要領で伸びた足を忍者の首に横からヒットさせる。
吹っ飛んで倒れた忍者の体の上に両足全体重よいしょと乗せてしゃがみ込みながら、眼下にいる忍者と視線を合わせた。


『たしかに殺してほしいって言ったけど、わがままで傲慢な殺人鬼な俺は、少なくともあんたをお呼びでない。』


その言葉を紡いだ表情は逆光でよく見えなくて不気味で死にかけとは思えない凄みがあり、声も冷たい。そのおどろおどろしい様相に忍者は思わず悲鳴を漏らす。
覇気を纏った右手を忍者のこめかみにがん、とヒットさせてやれば泡吹いて気絶した。
一方俺はもう脂汗だらだらだけど。ふー、と息を吐くと痛む胸は、肋骨かあばら骨あたりが折れたんではないかと思わせる。左の肘から骨がこんにちはしてるしもうボロボロもいいところだ。
血にまみれてこんな有様ではチープなスプラッタ映画も裸足で逃げ出すぐらいでは。
血で額に張り付いた前髪をはがすとぺりぺり音がして、乾いて突っ張った肌が痛んで顔がしかめっ面になる。安い湿布剥がしたみたいな感覚。
横たわる忍者の上に座りながら周りを見渡してみるとどうやら処刑された遺体を晒すまいと一味はばりばり動いており、もうこの島に俺たちがいることがバレるのはやぶさかではないらしい。
動きたいところだがずっと頭ががんがんして考えがまとまらなくてなんかこう力が入らない。概ね、赤色が言っていた脱水症状ってのは当たっているのだろう。喉ひきつるし耳鳴りもするしコンディション最悪。
見渡したあとまた眼下の気絶した忍者からごそごそとくないを抜き取っている中ふと疑問。零崎の殺意はなくなれど覇気は使えるものなのかと初めて知った。


喪失の朝
(失ったものはあったけど)




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