04




小学三年生の冬休み。
祖父の家に3泊ぐらいの里帰りをした。なんだか冬休みに入ってから不思議と一緒に遊んでいた友達の首を絞める光景が急に浮かんできたり、宿題を教えてくれていた兄を文具箱のハサミで何度も刺す光景が浮かんできたりしていてあんまり眠れなかったのを覚えている。
寝不足を寒さのせいにしたんだっけ。
父親と母親と中学生の兄と祖父、祖母。そして俺。
パチパチと音をたてる薪ストーブの温かさととうすら積もる雪、手足の先が痛むくらいの寒さとしもやけの感覚を微かに覚えている。
昔から代々受け継がれてきたという祖父の蔵に入って探検するのが好きだった。高そうな壺やお皿や、甲冑とかが埃をうすら被って陳列されてて、その日はなんだか一階は見尽くしたから二階の方に行きたいなと思って、階段に並べられていたお皿をどかしながら初めて二階に侵入した。
祖父母の足腰が悪いこともあってか暫く誰も踏み入れてないようで、足を踏み入れた瞬間古臭いにおいと埃が舞い上がっておもわず咳き込む。豆電球1つでオレンジ色に薄く照らされた部屋は少し気味が悪かった。
それでも目を惹くような大きな桐箪笥や動いていない時計とかがちらほら置いてあって、箪笥の中にお金とかないかなと開けてみると武士の刀のようなものが何本か入っていて、思わずたじろいでしまう。
物騒だと思ったけど、なんだか違う感覚も混じっていた。なんというか、どきりとした。
開けては閉めを繰り返し、一番下の引き出しも開けてみると刃がむき出しの刀が置いてあって、ようやくどきりとした感覚が興奮しているものだと自覚した。なぜこんなに胸が高鳴るような、渇いた喉が水を求めるかのような、そんなおぞましい感覚なのだと戸惑う。
なんだかこれはまずいと思い、やや乱暴に引き出しを閉めて階段を駆け下りて外に出たら日中の眩しさにくらりと視界がゆらめいた。
そんなふうに勢いよく出てきた俺の様子を見に来た母はあら顔が真っ青と近寄ってきて、そのシルエットが、母の血まみれの姿と重なって、ひ、と喉が引きつってしまう。
あとはもう語るに及ばずだろう。
その夜、いつのまにか雪が積もっていた庭に祖父の首が転がってたり縁側から覗く居間には祖母と母が血を流して倒れていたり父のお腹から腸が出ていたり俺の足元に兄の体が横たわって俺の右手に握られたあの刀がその体を刺していたりして、その惨状を自覚した瞬間、悲鳴とか叫び声とかが出なかった。
むしろ、今までにないぐらいホッとしている自分を自覚して、俺はもう人間とはかけ離れているらしいとぼんやり思ったのだ。月夜だけが不気味なほど綺麗だったそんな真冬の夜。


「おはよう、私の愛しい弟。」


眼鏡越しにまるで親愛なる親兄弟を見るような優しげな視線を向けた針金のような姿見の男が俺の目の前で、月明かりに照らされていた。
一瞬にして心を奪われた。
俺はこのために、彼に会うために生きていたのだと陳腐に聞こえるワードがしっくり来るほどの出会いにして出逢い、出遭い。



毒を食らわば地獄迄
(きれいな月ですね)(白い息とともに)




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