02




視線を集めようとやることは変わらない。
だん、と地を蹴り迫ってきた首筋を狙う刀を体を捻って避け、目の前の殺人鬼の腹にワンパン食らわそうとした瞬間、刀を地面に刺して固定させ、体勢を空中で変えた零崎の覇気をまとった脚があたしの横腹に入ってよろめく。
零崎の鼻から鼻血が、つ、と垂れてきた。自殺行為だろ、そんな荒技みてえなスイッチングは。
零崎へ突き出した手刀の腕に待ってましたと言わんばかりにカウンターで刀が腕に切り込みを入れたが、咄嗟に力を込めて刀の抜き差しができないようにし、空中で身動きができなくなった一瞬、脚を振り上げてつまさきをみぞおちにぶち込んだ。肉を切らせて骨を断つってか。痛ってえな、舌打ちひとつ。
刀から手を離して血を吐きながら地面に背から倒れこむ殺人鬼の目は明らかに焦点がいかれてるくせに眼光だけは鋭い。いかれてるくせに、よくまあこんな刀振り回せるもんだ。立つのもやっとだろうに。なんだかおかしくて思わず笑いがこみ上げた。
腕に刺さったままの刀を抜いて地面に刺す。
げほ、と咳き込みながらも、ひゅーひゅー虫の息になりながらも立ち上がるそのガッツは嫌いじゃねえぜ。あたしが好きな少年漫画の主人公みたいだ。
こちらに突き出された覇気を纏った拳を後ろに一歩跳んで避け、アッパーを顎に一発食らわせれば白目をむいてよろける。
避ける気力すらねえのかと思ったが、視界に鈍い輝きが映り込んだ。
血反吐を吐きながらもしたり顔の殺人鬼。


『ほんめ゛いは、こっち、』

「これだから殺人鬼は!」


自分のことなんて知ったこっちゃねえってか!
軌道が見えないため、勘でしゃがみこんだ瞬間頭上すれすれを刀が横切った。あくまで首を狙っているあたりが怖いくらい一貫して殺人鬼である。勘が当たってよかった、ラッキーってな。
しゃがみこんだ拍子に地面に手をつけてこめかみめがけてつま先を下から伸ばすと、咄嗟に覇気を纏った腕を頭の横に持ってきた。限界だって言ってんだろ、懲りねえ奴め。


『い゛っ、』


覇気を纏っているにもかかわらず痛んだ左腕。思わず自分の口から枯れたうめき声が出る。痛いという言葉を言いかけた。
倒れかけたがなんとか踏みとどまったものの、容赦なく拳が目の前に迫っていたので、そのまま覇気を纏った拳をぶつけた。
しかし、衝突した瞬間にぶつかった拳から鋭い痛みが生じて拳から肘へと痛みがそのまま走って、少し曲げていた肘の部分から裂けた骨がみしみし、ぶつっと皮膚を突き破ってきたのが見え、咄嗟に体を回転させてこちらに押し込まれていた衝撃を殺してやる。発狂するような、叫びたくなるほどの痛みが身体中を駆け巡って、堪えるように歯をくいしばる。うわ、脂汗がどっとくる。
叫びたい俺の代わりにナミやウソップの悲鳴が聞こえたような気がした。もうやめて、なんて残酷なこと言わないで。
その回転の威力のまま刀を首筋に、と思ったが軸足から力が抜けて体勢が崩れて、初めて耳鳴りがしていたことに気づいた。目の前がちかちかして白黒になる。そして赤色の声がやけに耳に残った。


「もういーだろ、殺人鬼。もうどうにもできねえことに縛られんな、女々しいったらありゃしねえぜ。」


がつんと頭に衝撃が走った瞬間、世界がグルンと回った気がした。いや、俺が倒されただけか。
地面に突っ伏したまま指一本動かない。咳込むたびに肺が痛む。肺で合ってるかは分からないけど。
嘉識、とナミたちが駆け寄ろうとしたが、赤色が来るなと一喝してその足を止めた。


「心配すんのは結構。今そいつはまともじゃねえからやめときな。」

「何言って…!?」

「うっかり殺されちまうかもだ。焦点合ってねえだろこいつ。ここに来るまでの荒野とか野良の化け物巻き込みまくりながら刀振り回し続けてるんだぜ。おまけに単純に3日殺り合っていたから脱水症状みたいなのになってんだな、多分。それとも零崎の殺意と覇気を荒々しくスイッチし続けたからか?ラーメンとパフェを頼みました、ただし一口ずつ交互に食べてますみたいな。は、気持ち悪!そんなことやってりゃどのみち限界だろ。」

「おいちょっと待て!3日だと!?俺たちと別れた後からずっと殺し合っていたのかよ!!」

「そうだ、さすがのあたしもそろそろ疲れてきたってか腹減った。」


別に命とろうとしているわけじゃないから安心してろという言葉に、でもあんた殺しに来たって言ってたんでしょとナミたちは半信半疑の目を向けた。
そんな視線を向けられながらも、そりゃそうか、いやでも他に言いようがねーしなと思うけど。
視線を地面に這いつくばる零崎に向け、す、と息を吸う。縋っているもんがなくなる残酷さと冷徹さと非道さをあたしは知っているからこそ、今言うべきだと判断した。ここからが請負人の仕事。


「俺がお前を殺してほしいと依頼した。」

『――ぎ、じしき、』


指一本動く気がしなかった体が動いた。這うように、上体だけをなんとか起こす。赤色が声真似をして兄である軋識の言葉を紡ぐ。嘘とは思えなかった。待ち望んでいたことがとうとう。
軋識というか、もう1つの顔、式岸軋騎ってやつの喋り方であることは別に気にならない。


『俺は、ずっとこの出来損ないをただ貴方たちに罰してほしかった。』


我が愛を喰らえ
(孤独に耐え難い)




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