03




体をひねりながら跳ぶ。足があった場所を糸の弾が通り過ぎる。ひねった勢いで刀を斜め上から体重を乗せて振り下ろしたが、爪から出た糸で受け止められる。
重力に逆らえず地面に落ちてきた体に合わせるように、ドフラミンゴが爪先を上にして足を蹴り上げた。
刀を引き寄せ面で防ぎ、刀の面の上を足場にして跳躍。
首に足を引っ掛けるように蹴りを入れると地面に叩き落ちる自分より遥かに大きな体。
追い討ちしようと上から刀に体重を乗せて突き刺そうとしたものの、跳ぼうとした利き足に力が入らず前につんのめって地面に顔面からダイブした。自滅である。
荒く大きな息が収まらず、やっとのことでお互い立ち上がる。周りの喧騒はあまり意識せず、お互いがお互いの全てを、呼吸や息の仕方、指一本に渡る体の動き、一挙一動から発せられる音一つも五感すべてを尖らせて感じ取る。
こういう時は小手先の動きより大きくても速く仕留めるに限るわけで、その一歩がどちらからともなく踏み出された。瞬きの間に刀と糸がぎりぎりと音を立ててぶつかり合う。


「……フーッ…!フーッ、…覇気も、無い刀で、…渡り合うなんざ、どういう仕組みだ、」

『…ッ、…俺を動かすのは、覇する力ではなく、……人を、っ殺す力だから、』

「バカにしてんのか…!」


そう思うのはどうぞ勝手にしてくれと無言の返答をして睨む力を強める。サングラスで隠された瞳はどういう色をして何を見ているのか分からない。
暫く続いていたそのぎりぎりの均衡は、刀と糸が弾かれた大きな音によって崩された。力負けして仰け反る体に爪から伸びた糸が襲いかかろうとしている様子がスローで見える。刀は弾かれた時に血で滑り落ちてしまった。だって、手首から血が流れ続けるから手と柄の間に流れ込んでしまっててなんて言い訳じみた考えが頭の中をよぎる。
左の手首に巻き付けられている刀の柄とつながる布を引き寄せれば戻すことはできるが、間に合わないのはわかるのでここはどう避けるか。
手を先に地面につけて、バク転の要領で、より後方へ飛ぶしかないか。

手を地面につける。新しい痛み。肘ががくんと崩れ、体を支える力が抜けてしまった。
頭から仰向けになるように倒れ、体を起こさないまま首だけ振り向けば黒髪の女性が俺の手の甲にナイフを突き立てているのがようやく見え、その女性の青い顔と涙目で察する。
ナイフが刺さったまま女性を払いのけ、体勢を整えようと立ち上がって前を見れば、ドフラミンゴの片手は別の動きをしていた。


『ずるいよ、』


なんだか笑えた。そう呟いた瞬間体の正面の皮膚が斬り裂かれ、鮮血が吹き上がった。
意識が飛び飛びになって地面に倒れたその時に、国中に聞こえるような大音量の音声が響いた。


「私は忘れない!誰もが恐れる、殺人牛を手懐け!雲をつくような巨人をなぎ倒し!生ける伝説首領・チンジャオを討ち砕き!コロシアムを…いや、このドレスローザを湧かせた小さな剣闘士!私は未だかつて、かくも自由でかくも痛快な試合をする男を見たことがない!その名も!!ルーシー!!そう!ルーシー、またの名を、麦わらのルフィ!!」


収縮し続ける鳥カゴに抗う戦士たち。生きるために逃げ続ける国民たち。
その誰もが奮闘しながら響き渡る音声に耳を傾ける。


「真の王、リク王様をもって希望と言わしめた男!彼は今戦いに傷つき、倒れてしまったが…!嬉しさに震えろドレスローザ!!ルーシーはこれを約束してくれたんだ!ドフラミンゴの!!一発KO宣言!!!!」


絶望の中の大きな希望に人々から歓声が湧き上がる。その音声を告げる男を気に入らないと言わんばかりの表情でドフラミンゴは睨んだ。
命の危機に直面しながらも体も声も震わせながら男はやるべき事を、その声を上げることを止めない。


「ルーシーは蘇るっ!!その瞬間まであと10秒!!」


必ずドフラミンゴを倒してくれると、必ずこの国の鳥かごのような、息の詰まるような支配を壊してくれると信じて大きな声をあげてカウントダウンし始めた。
スターを、ルーシーと、名前を呼ぶ。
茶番だと言いのけ、用済みのヴァイオレットにとどめを刺そうと手をあげた瞬間、ぎりっと音を立てるように強く足首を掴まれてとっさに足元を見やる。
ぎょっとするとはこういう事なのだろう。


『ぅ、げぼっ、…行かせ、ないっての、』

「っ、しつけェな…!」


血反吐を吐きながら爪を立てて足首を掴むその、立ち上がれもしない、朦朧とした意識のようでいまいち焦点も合っていない姿に、畏怖すら覚える。その頭を踏み砕けばそれで終わり。
なんてことはない、掴まれていない方の足を振り上げ、その目障りな頭に足を振り下ろせば。
しかし下ろした足は頭を砕くことなく、意図せず前方から放たれた蹴りを防ぐような格好となったのだ。


「麦わら!」

「現れたァ〜!!ル〜シ〜ィ!!!」


狂気と歓喜の中で

(誰もが待ちわびた男)




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