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『なんだ、逃げたのか。』


ガラガラと音を立てて崩れた雪のかたまりから脱出した部屋には、誰も、先程の女もいやしなかった。
雪を身にまとい変形した彼女はかまくらの中で俺に噛み付こうとしたので、その行儀の悪い大きな口に刀をつきたてようとしたら逃げてしまったのだ。
あんたから壊してほしいならそれならそうと言ってほしいと文句を告げたら気配がなくなったのを感じ、逃げたのかと思っていたらその通りだった。まあいいや。
さてとりあえずだれか探しに行こうと部屋を出て、階段を下ればあちこちで人の気配を感じる。
とりあえず人が多いのはこのRと書かれた棟っぽいので、そのまま通路を通って進んで行くと開けた空間に出ることができた。おや、狙っていた奴がいるなんて運がいい。
だが取り込み中のようだしちょっと様子を伺ってみよう、何せこんなずたぼろな体である。休憩も兼ねて。


「俺の部下達を返せ!島の中央で追い剥ぎの目にはあったが死んだわけじゃない!とうに帰っているはずだ!!」

「…はて、どうしたものか。連絡もよこさねェな。俺もちょうど心配していたところだ。」

「…!!?お前の言葉などもう何も信用できねェ!お前らも2年同じ島で過ごしたよしみだ!今すぐ島を出ろ!裏でこの男がお前らのことを何と呼んでいたか教えてやろうか!お前らこう言われてんだ、モロモっホあ!!…ん?モロモンファっ!!」


この滑稽な様子に起こる爆笑の渦。
本人は真剣そのものなのだが、こんなふざけられちゃ笑ってしまうのもわからないでもない。
シーザーによって何かされたらしく、口だけじゃなく体にまで回った効果で倒れこむ。


「筋肉弛緩剤だ。口も体も力が抜けるだろう?」

『モルモット、って言いたかったんだよこのおじさん。』

「なっ!てめェ死んだんじゃなかったのか!モネのやつ…しくじりやがって、俺の毒で生きて出てこられるわけ…!」

『たしかに倒れはしたけどあの時死ぬわけじゃなかったってこと。気力で身体動かしているようなものだから、もうちょっとやそっとの毒じゃあ倒れない。』

「なにィ!?」

『そんなことよりいいの?部下たちが驚きの目で見てるけど。』

「…はっ!」

「ま、マスター…?」

「まっ、惑わされるなお前たち!この男は麦わらの一味!優秀な部下茶ひげもこいつらの手によって馬鹿げたことを言うようになってしまった!」


ああ、とんだ濡れ衣。
だが部下らの敵意は膨れたらしく、俺に向かって銃を向ける。ああ、零崎にそんなものは効かないのに。
面白おかしいように思えて、笑みが濃くなったのが自分でもわかった。


汚れた手

(何で汚れたかなんて言わないけれど)




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