02




「―――!っおい!嘉識!!」

『!』

「っ、どうしたんだよ」

『ぁ…、いや、ごめん』


ふり絞るように言ったなんでもないという言葉は聞こえただろうか。それよりも、一瞬ウソップの呼びかけに対してにらんでしまった。 ああ、いけない。その視線におびえたような表情を見せた、否、させてしまった。
俺はこのまま、この一味にいて、この殺意を抑えられるのか。
いや、待て、しかし、抑える必要がないのだ。
今まで探し続けてきた兄の敵がこんなところにいて、むしろ自分を情けなく思う。 呼吸をしたい、息苦しい、必然的に、殺すべき、何もかもぶち壊してしまうほどの衝動をぶつけるべき。 殺してしまえ。
なのにどうして、なぜ、


『(体が動かない。)』

「この島ももう爆発しちまうぞ!逃げねぇと!嘉識もなにもたついてんだよ!」


滅んでいくこの島から逃げる彼らの後を追う自分がまるで別人のようで、思考と行動が結びつかないことに戸惑うが、確実に自分の身体を殺意が蝕んでいくのが分かった。
嗚呼、駄目だ、憎い。




雨が降る。
船を預けたドッグの島に無事戻ってきたが、ルフィの二度目の敗北と麦わら帽子が奪われたことでテンションが低い。雨は俺の殺意を別に抑えてくれるわけでもなく、むしろじめじめとした感覚が増長させているような。
一度、離れた方がいいのかもしれないなんて思い立ち、刀を持って外に出る。
すると、みんなカラフルな傘をさして外に出ていた、うわまさかばれたのかとか思ったらそうではなかった。 見覚えのあるようなないような…、なんて見ていたら、その男はこちらに向かってよっと言って軽く挨拶をした。


「お前、覚えていないって顔だな。」

『あー…どちらさまでしたっけ?』

「2年前、マリンフォード。」

『あっ、海軍大将のひと。氷の人。』

「大将青キジ、なんて呼ばれていたがもうやめたんでね。クザンって呼んでくれていいよ少年。」

『ああそう。』


何の用かと思っているとわざわざご丁寧にゼットについて教えに来てくれたらしい。
新世界には3つの火山、通称エンドポイントがあって、それを破壊すれば新世界がすべて滅ぶというまぁおとぎ話のような話。ゼットは元海軍大将で海賊恨んでいてぶっ壊すぜみたいな感じでそれを可能にする兵器まで持っているという。いやクレイジーさがすさまじいな、嫌いじゃないけど。
ルフィは知ったこっちゃねぇとか言って帽子を取り返しに行く気満々である。


「――で、」


ちらりと、こちらに視線が向けられ、甲高い金属音が鳴り響く。


「お前はいつまでそのおっかねぇ殺気出してんの。」


刀と、氷の刀がぶつかる。ばれた。
せっかく穏便にしようとコントロールしようとしてるのに台無しにされた。


「嘉識!?」


驚く彼らの呼びかけには応えない、応えた瞬間殺してしまう。ダメだくそイライラする。
隠す必要ないだろ、当然のことなのだからという声が自分の中から聞こえてくるような錯覚。いやほんとなのか。


「大方、自分の敵をゼット先生、いや、ゼファーに聞いたんでしょ。かわいい顔が台無しになるくらいおっかない顔してるぜ。」

『…あんたも、知っていたわけ。』

「お前が賞金首になった時、海軍の中将以上は知ることになったんでね。親父さんのことはまぁ昔ちっと知っていたが、残念だったなぁ。」


―――ショックだよな、自分の兄貴を殺した奴が、信頼しつつある人間だったなんて。

雨の音だけが響く。誰も声を発しない。
自分の鼓動だけがいやに大きく聞こえる。
喉が渇いてひきつる。目が乾く。体を湿らせているのは汗か雨か。


「何、て?」


動揺交じりのルフィの声が聞こえる。
知らばっくれているつもりはないことは分かっていても、そう言いたくなる。そういう奴らなんだ彼らは。殺すつもりなどいつだってないことは分かっているけど、俺の憎しみの行き場がなくなるのが遣る瀬無い。
同時に抑えきれなくなった殺意がだだ漏れになった。ああ、もう、殺意で殺せそう。
ぶわりと全身の毛が逆立つ感覚がした。


「殺しちまいたい気持ちは分からねえわけではねえが、せめて説明したっていいでしょ。」

「殺す?嘉識が、わたしたちを?」

「そう思われても仕方ねぇことしたってことだよ。」


話しちまうけど、いいな?と聞かれ、ぶつかり合っていた刀を一度引く。
俺は話すつもりもないし、言葉も発することができないほど抑えるので精一杯だから、別に誰かがどう教えようともう、隠しようがないからかまわない。


仇を愛してしまったなんて

(なんて失態)(なんて愚行)




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