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『ただいま、』
血の臭いが酷かったので銭湯に行って来たらもう夕方で日が暮れそうだった。
窓から差し込む夕日が眩しい。ふと思い出し、足をダイニングに進める、今日こそちょっとでもいいから食べてくれるといいんだけど。
あれ以上食べなかったら兄さん倒れちゃうかも…、うわ泣く。
勝手な想像をして軽く泣きそうになりながらダイニングへ入るとそこには、
『に、兄さん!』
「おかえり、嘉識。」
両親の面影が重なるその顔には、瞳にはもう迷いがなかった、何かから吹っ切れたみたいな。
…余談だが兄さんは見事に両親の血を受け継ぎ親子だと分かるほど似ている。
顔のパーツは全体的に母だがシルエットとかは父だ。短い黒髪、少し筋肉がついている体躯が父、強い意志を秘めた深緑の瞳、下唇が少しふっくらしてるとことかが母に似ている。
だが驚いたことに俺は、前世と全くそのまま同じだ、全然両親とは似ていない。
別に特段気にしてなどいないが。
『どうしたの?』
間。
真剣な面持ちの兄さん。
「嘉識、僕、この家を出ようと思うんだ―――。」
自分でも分かる、今俺はアホみたいな顔をしていると。
それだけ動揺しているのだ。
『っ、なんで…!』
「これ、読んで。」
差し出されたのは今は亡き両親の、
『日記…?』
「うん、」
嘉識にも知っててほしいんだ、何で父さんと母さんが死ななきゃならなかったのか。儚げな顔で言うから、俺は大人しく読むしかなかった。いやもう知ってるなんて言えないし。
時間が意味を失っていく
(ただ在るのは、)(事実のみ)
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