02.双子の戦い方

背後を見上げると、木にのぼって様子をうかがっていた時音がいた。

「時音ちゃん!」

解、と珠守が結界を解いて、時音を招き入れる。しかしなおも攻撃はやまない。

「はやくしないと、校舎がどんどん壊れちまうねェ…。」

斑尾が妖に視線をやりながらゆっくりとつぶやいた。確かに妖はどんどん校舎を吸収し、吐き出しながら破壊している。このままいけば烏森の力で妖が強化されるのも時間の問題だろう。

ああもう、滅するより修復するほうが大変なのに。

珠守は心の中でぼやきながら、再び3人を囲う結界を張った。

「ありゃあ土蝦蟇(つちがま)っていう妖だな。」

白尾が情報を出してくれるが、正直今は妖の名前などどうでもいい。できるだけ早く滅することが先決だ。

「まずあたしがあいつの気をそらすから、その間に良守があいつを囲って滅する。珠守はあたしと一緒に良守の援護。わかった?」

珠守はうん、と生返事を返して結界を解いた。その瞬間に良守と繋がれていた手が離れ、良守は土蝦蟇に向けて一直線に走っていく。それを追うように珠守も駆け出す。

「ちょっと!あんたたち勝手な行動しないでよ!」

時音が後ろから叫んでいるが、ふたりは全く気にしない。いや、厳密には気にしていないというわけではない。走りながらも時音に攻撃が及ばないように珠守は結界を張っている。

「珠守!跳ぶぞ!」
「わかってる!」

良守が背負っていたリュックを投げた。そのまま前方に大きくジャンプする。珠守は左手でそれを抱き抱えると、右手で印を結んだ。

結、と唱えると、空中に結界が浮かび上がる。その数は、5。同時に結界を張るのは珠守の得意技でもある。

良守はサンキュ、と口角をあげ、結界を踏み台にして土蝦蟇に急接近した。

ぐぱ、と口を開けた土蝦蟇が土砂の塊を吐き出そうとする。空中で体制を整えた良守が土蝦蟇を囲うのが先か、攻撃されるのが先か。

「させるかよっ…!結!滅!!!!」

良守がすばやく結界を結び、滅する。さすがのパワーで、土蝦蟇は一撃で滅されてしまった。

…あのパワーは、私にはない。

ぐっ、と奥歯を噛み締めて、珠守は天穴を構えた。嘆いたって、ないものはないのだ。どうにかして手に入れるか、諦めるしかない。しゅるると吸い込まれていく妖だったものを見つめながら、珠守は考えた。

「珠守!ナイスサポート!サンキュな!!」

しゅたっと軽快に地面に降りた良守が笑顔で駆け寄ってくる。そのまま彼より少し低い位置にある珠守の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「にしてもすげぇなぁ!よく5こも同時に結界張れるなぁ!」
「良兄のほうが、パワーあってすごいじゃん…。」

んーん、珠守のほうがすごいよ。今日もありがとな。って良守はヘラっと笑った。それだけで珠守も、さっきまで心にあった苦い感情をかき消すことができる。

「こら!あんたたち!いっつも勝手に突っ込むんじゃない!!ちょっとは連携しようとしなさいよ!危ないじゃない!」
「ごめん時音ちゃん、けど良兄が飛び出しちゃうのが最善策だと思ったから…。」
「あたしには分からないのよ、ちゃんと何かするときは教えてって言ってるじゃない。」
「う…、ごめん……。」

良守もばつが悪そうな顔をして謝った。珠守と良守が心の内で理解しあえることを、時音は分かることができない。あたりまえのことだ。だがふたり自身も言葉を交わさないのに意志の疎通ができる理由は分からない。だから説明しようにもできないのである。

「…ふたりが無事ならいいのよ、さっさと片付けましょう。」

「俺らも、時音に怪我がなかったらそれでいいよ。」

なっ、と良守は珠守に笑いかけた。


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