14.その日は、

「私、墨村の方とはあまり関わりがなくて…。烏森を守ってる家はふたつあるってことくらいしか。でも雪村さんのお父さんの、時雄さんには良くしていただいたの。」

にこにこと楽しそうに話す夜未。夜未に出されたお茶のお供は、結局良守が作ってきたケーキになってしまった。絶賛人見知り発動中の珠守はふたりより少し後ろで一心不乱にケーキを食べている。夜未との会話は時音と良守が担当だ。といっても、良守と時音もおしゃべりな夜未に相槌をうつだけで、たいして話してはいない。

「時雄さんね、とっても気さくで親切な方だったのよ。初めて会ったときにね、」

笑顔を絶やさず時雄の話をされ、時音の表情は徐々に陰っていった。

「亡くなってしまったのが、ほんとうに、惜しいわ…。」

珠守は記憶の端にある時音と父の姿を引っ張り出した。笑顔のふたりは幸せそうで、雪村家には両親がいつもそろっていて羨ましいなんて、子どもながらに思ったことがあったか。ケーキを飲み込んで目を伏せた。一気に話し終わった夜未に返せる言葉を、3人は持ち合わせていなかった。




なんかあの人苦手だったなぁ、と、次の日の朝、寝ぼけ眼で珠守は思った。今日も修史のごはんはおいしい。横で同じく朝食をとる良守も眠そうだ。

「なあ、珠守…。あの人いつまでいんのかな。」
「しらない。けどあんまり関わりたくない、というか、関わらせたくないと思った。」

時音ちゃんと、と付け足して手を合わせた。良守も食べ終わったようで、手を合わせてふたりで「ごちそうさま」をした。

その日は1日、夜未と時音のことを考えていた。父親の話を聞くときの時音の表情が忘れられないのだ。どれだけ父が誇りだと言ったって、あの日の記憶が消えてくれるわけではない。珠守はその時間、自分こそその現場を見ていないとはいえ、烏森から感じる邪気に耐えきれず起きていたのだ。隣家からただならぬ声が聞こえていたことはよく覚えている。きっと良守も同じように記憶しているだろう。あの日、邪気におびえて泣く珠守を慰めるために良守も起きていたのだから。

珠守はぎゅっと目をつぶり、伸びをした。良くないことを考えると、思考が泥沼にはまるようだった。

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