変わらない日々。(実況者*キヨ)

「ねみぃー、だりぃー、なんかおもしれぇーーーーことないかなぁあぁぁあぁ。」

な、美桜ちゃん?

そう言ってソファに大の字になっているのは、現在動画サイトで人気沸騰中の実況者、キヨ。何を隠そう私の彼氏であり、同棲して半年が経つ。

「楽しいことはキヨくんがつくるんでしょ、それがお仕事なんだから。」

現在昼の12時。夜型の彼がこんな時間に起きているのは珍しい。いつもは昼過ぎにのそのそと起きてくるのに。

「仕事とか言うなよぉ、俺はゲームして一生働かずにゴロゴロして死んでいきてぇのー。」
「駄々こねないでよ…。ほら、ごはんできたよ。」

出来立てで温かいポトフをよそいながら言う。今日のあさ兼ひるごはんはオムライス、サラダ、ポトフの3品。ドリンクはふたりで飲むから、と2リットルで購入した綾鷹。

「うまそ、野菜おおくね?」
「キヨくんが野菜全然食べないから野菜多めにしてるの。文句言わずに…、」
「ん、ありがと。ちゃんと食べるわ。」

……やばい、いま、きゅんとした。

文句言われるかと思ったら笑顔で頭撫でられた。大嫌いな野菜ばっかりの食事なのに。その笑顔はずるすぎる。そんなおいしそうに食べないでよ。野菜嫌いって嘘なの?今まで必死に肉にまぎれこませてた努力を返して?

実況モードじゃない彼はちょっとだけおとなしくて、ちょっとだけ素直。めったに口論もないし、動画で聞くような暴言もない。…下ネタはそこそこあるけど。

「はぅあっ…!尊い……!」

はっ、つい心の声が!

「はいはい、分かったから。ごはん食べような?あとでいっぱい甘やかしてやるよ。」

こっっっの、人生あまちゃんが!!!さっきまでダラダラしてたのに何で急にかっこいいかな!?もう!

私は秒速で昼ごはんを食べ終えた。だいすきなキヨくんが、甘やかしてくれる!!

キヨくんがさっきまで陣取ってたソファに正座して彼を待つ。ご丁寧にお皿を洗ってくれてるけど、そんなの私がやりますから!はやく!

「おまたせ…、って、相変わらずだなぁ美桜は。」

彼はソファに腰かけると、脚の間に私を引き寄せた。心臓爆発しそう。彼の大きな体にすっぽりと抱き締められて、体温を感じる。背後から抱き寄せられてるから、抱き締め返せないことがもどかしい。

「いつまでたってもそうやって可愛い反応してくれちゃうんだもんな。ちょっと信者みたいで怖いときあるけど。」
「さ、さーせん…。」

ふはっ、と彼は笑った。実況撮ってない時の彼は、ぼーっとしてるか寝てるかのどちらかだったけれど、最近ちょっと口数が増えたらしい。レトさんが言ってた。

「わたし、キヨくんのこと、ずっとすきだよ。」
「なんだよ急に、今から死ぬんか?」
「どうしてそうなる!?愛の言葉を伝えただけだよ!?」

体勢を変えて、キヨくんと向かい合う形になった。首に腕を回して抱きつけば、彼は私の腰に手を回して抱き寄せてくれる。同じシャンプー、同じ柔軟剤の香り。すんすんとにおいをかぐと、その中に彼のにおいを感じた。

「こら変態、やめろ。」

キヨくんは口ではやめろと言うけれど、決して引き剥がしたりはしない。ただ笑うだけだ。

すきだよ、だいすきだよ。

この気持ちがもっと伝わればいいのに。いつか抱き合っている間にお互いの心がくっついてしまえばいいのに。自然と腕に力がこもる。キヨくんも背中を撫でてくれる。

「美桜さーん、俺そろそろ絞め殺されちゃうんだけど?」
「あ、ごめっ、」

ちゅっ。

「んな、に、ええっ!?」
「ふっ、ははっ!おもしれー顔!」

離れた瞬間に彼からのキス。後頭部に手が回されて、逃げることなんかできない。私はずっと戸惑っていて、キヨくんはずっと楽しそうにしている。そんなキス。

「もう、くるし…!」
「…っ、だーめ。まだ気が済まない。」

今度は彼が私を離さない。もうだめだ、おぼれてしまう。ただ好きだと思い続けて、ただそばにいられればよかったのに、もう彼なしでは生きられなくなる。

「は、えっろい顔、誘ってんの?」
「バカ、誘ってない…!」

ようやく解放されたのに、それがなんだか寂しくて、彼にしがみつくように抱きついた。

「あ、おもしれーこと、思い付いちゃったわ。」

え、なぁに?と聞くよりも早く、キヨくんは私をだっこしてベッドに向かった。

「せっ、」
「しません!!!!まだ昼!!!」

だっこされたのは最高だったけど、展開早い!夜まで待て!この紅しょうがヘアーめ!

ちぇ、と残念がる彼と、ふいに冷静にもどる変態な私。

共同生活は毎日こんな様子で流れていく。



Fin.


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