桜と総悟とおかーさま
「いいてんきー!でさァ!」
「平和だねィ…。」
ぽかぽかとお日様が江戸を照らす、ある日の昼下がり。総悟とみおは巡回という名目で散歩していた。出来るだけ人のいない、安全な道を選んで歩いていく。静かな河原に差し掛かると、春には満開の桜を咲かせる木が目に入った。しかしまだその枝にはわずかな蕾しかない。
「総悟!これはなんですかィ?」
みおは走って木に駆け寄り、蕾に手を伸ばした。しかしその身長では届くはずもなく、蕾に触れるまでに手は空を切った。
みおの短い髪の毛が風に舞い上がる。淡い色合いの浴衣によく映える、鮮やかな子ども用の帯もやわらかく揺れた。
総悟は少し早足でみおのもとへ向かう。届かないのに必死に手を伸ばすその体を抱き上げてやった。
「うぉぉ、とどきやした!」
そっとみおは蕾に触れた。途端にほころぶ笑顔。天人と人間のハーフとは思えない。母親は人間であるというから、きっと母親似なのだろう。
「これは桜でさァ。春になると見事に咲きやすぜ。」
「さく、ら…。これが、おはなになるんですかィ?」
「今はまだ蕾だからねィ。また連れてきてやらァ。ちょっとずつ、ちょっとずつ開くんでさァ。」
ほぇー、とみおは息をついた。蕾が花開くというのを、まだ理解できないらしい。植物図鑑には咲いたものしか載ってないから、それもそうか、と総悟はひとり納得した。
「そーいえば…。」
みおは総悟と桜を見比べて言った。
「これ、おうちのちかくにも、あったような…?」
「おうち?屯所ですかィ?」
「んーん。おうち、でさァ。」
そしてみおは総悟の髪に触れる。屯所に来る前に住んでいた家のことだろうか。それにしてもこの幼児、殺されたはずの両親を思い出しても平気なのだろうか。血塗られた実家を思い出しても、何とも思わないのか。
そういえば、万事屋の社長、坂田銀時はこの子の両親を見たことがあるのだったか。もう亡くなった後だったらしいが。
「…万事屋にでも行きますかィ。」
「ぎんちゃ?」
「あァ。いろいろ聞きたいこともありやすしねィ。」
んじゃ、いきやしょー!とみおは手を宙に突き上げた。