りんご


「だー!!!でき、た!」

相も変わらず起こす時は突進。腹部に軽い圧迫感を覚えて、総悟はアイマスクをずらした。仰向けに寝転んでいた総悟の上には、みおがしっかりと服をつかんで乗っている。起き上がるに起き上がれない。

「…とりゃ。」
「うぉぉ!?」

一気に上体を起こすと、みおは必死にしがみついてきた。くそ、落ちれば良かったのに。

仕方なくみおの脇腹に手を差し込んで持ち上げた。持ち上げるのに全く苦にならない重さである。

「お前、コレどうしたんでさァ…。」
「じみーにもらいやした!」

総悟が起き上がって見たものは、大量のりんごだった。部屋中にごろごろと転がるそれは、どう見ても最初に持ってきた10個よりはるかに多い。はぁ、とため息をついて「片付けろ」と言った。部屋が青果売り場のようなにおいになっている。みおは嫌な顔ひとつせず、良いお返事で片付け始めた。ぜひ次からは起こす前に片付けておいてほしいものである。

「なんでこんなにもらったんですかィ?」

片付け中のみおに聞いた。みおが片付けをやめて答えようとしたので、片付けはそのまま続けろと伝える。

「あんね、たしざん、ひきざん、できたから、かけざんっていうのをやろうとおもったんでさァ!」
「計算やり始めた初日にかけ算までやるたァ、なかなかぶっ飛んでやすねィ。」

まさか頭いいのか、こいつ。

「んふふー、まぁね!でさァ!」

そんでねー、と片付け終わったみおは総悟の目の前に正座した。ダンボール箱は山積みのりんごでいっぱいになっている。

「かけざんしようとしたら、『くく』がはちじゅーいちで、わかんなかったから、じみーにいっぱいもらいやした!」
「かけ算の仕組みは分かったんですかィ?」
「もっちろん!きゅーこのりんごを、きゅーにんがもってるんでさァ!」

…恐ろしい理解力だ。みおがすごいのか、りんごがすごいのか。

「でも、りんごをきゅーこも買うなんて、よっぽどりんごがすきなんですねィ!」

どうやらすごいのはりんごらしい。

「それはそうと、お前、このりんごどうするつもりでさァ。」
「たべやーす!」

にっこり笑って、みおはひとつを手にとった。まさか今食べるつもりなのか。

「やめなせェ。もうすぐ晩飯でさァ。」
「むー、じゃあ、デザートにしやしょー!」







そして、夕飯時。

「テメーらよく聞けィ。」

総悟は左手にみおを抱え、右手に拡声器を持って食堂の端から声を上げた。みおに拡声器を手渡すと、肩車をしてやる。

「あんねー、『くく』は はちじゅーいち、なんでさァ!だから、きょーのデザートはりんごでさァ!!!」

何の脈絡も無い話で、隊士たちは首を傾げた。しかし一番隊隊長の直々の言葉とあって、誰も口を挟めない。副長の土方でさえ、マヨだんごの恐怖を思い出して口をつぐんでしまう。

「つーわけで、ノルマひとり1個でさァ。可愛い可愛い子どもが勉強した暁のりんごですぜィ。ありがたく食いやがれィ。」

総悟がみおから拡声器を受け取って話した。隊士たちはそれぞれに返事をする。みおが「じみー!」と山崎を呼ぶと、先ほどのダンボール箱を抱えた山崎が入ってきた。みおがじたばたしたので降ろしてやると、走って山崎の元へ行き、りんごを配り始めた。

りんご1つをまるまる食べるのは、大人であってもそれだけで満腹になる。しかし笑顔で、みお本人に配られるとなっては、断るわけにもいかず、隊士たちも「いただきます」という他なかった。

「全員もらいやしたか?…残したら殺す。」
「手をあわせてー!いたっきやーす!」

みおの号令で皆が食事を始めた。

満腹になった隊士たちには、正直りんごを食べる余裕も無い者もいたが、みおの無邪気な笑顔が、食事をする手を休めさせなかった。

こんなガキひとりに翻弄されちまって、と土方は内心悪態をついたが、自分もそのひとりだと悟ると無言で食べ続けたのだった。


Fin.




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