「みみ、め、くち、はな、まゆげ…ま、ゆ…?ゆ…。」

今日はひらがなの練習に勤しむみお。顔のパーツをテーマに半紙に書いていく。「み」「め」「な」などの少々難しいひらがなは見ながら書けばなんとかなるのだが、「ゆ」が最大の壁として立ちはだかった。曲線だけで構成され、さらに交点も多いこの文字は、どこから書けばいいか分からないほど難解に思えたのだ。

「ゆぅぅ…?」

一度筆をおいて、ひらがなドリルをなぞる。

「こうきて、こうきてー…?」

指ではなぞれるのだ。しかし筆を持っていざ紙に書こうとすると、うまくいかない。

「総悟ぉぉ!ゆーー!!」
「…はぁ?湯…?」

みおは、相も変わらずアイマスクをつけて惰眠をむさぼっていた総悟に突進した。わずかな痛みを伴う衝撃に、半強制的に意識を呼び戻された。

「ゆ、かいてくだせェ!」

そのまま腕を引かれて机の前に座らされた。んっ!という声とともに筆を渡される。

総悟は半紙に書かれた曲線を見て、みおがひらがなの「ゆ」を書こうとしていたのだと理解した。湯、といわれて形のない液体を描かなければならないのかと思い、若干困っていた部分もあったのだ。

「『ゆ』は、こっから降ろして、もう1回上に上がって、丸をかいて、下に向かってはらう。」

筆の穂先の向きが変わるたびに、説明をいれた。みおは横から顔を覗かせて頷いている。

「ほれ、やってみなせェ。」
「あぃっ!」

筆を手渡すと、新しい半紙を引っ張りだしてから筆に墨を含ませた。余分な墨を落として、書き始めの位置に照準を合わせた。

「こっから、おろす!あげる、…まる……?」

しかしやはり、終盤で分からなくなってしまう。手を止めれば半紙が墨を吸って、そこだけがじわじわと黒く染まっていった。

「わかりやせん!」
「自信満々に言うことでもありやせん。」

ていっ、とデコピンすれば、あぅっ、と返ってきた。みおは再び筆を持って机に向かう。

「むー…。だってぇ…。」
「だってじゃねェ。とにかくもう一回書きなせェ。」
「あぃ…。」

こうやって、こうやって、と、さっきと同じ所まで書いたところで、総悟はみおの手を上から握って筆を持った。

「この後は、こっちに筆を持っていくんでさァ。」
「ほぉー!かけた!」

何度かやった後にひとりで書いてみろと言えば、感覚を掴んだのか、綺麗な曲線を描いて「ゆ」が紙上に浮かんだ。

さすが、幼いうちは物覚えが早いのだろうか。何度やっても間違えることはなく、「ゆ」の半紙が量産された。

「他に書けねェ字はないんですかィ?」
「ん!もーない!」

ひらがなドリルを与えてからしばらく経った。新しいことを覚えるのは楽しいようで、みおもかなり乗り気でやっていた。もう文字を覚えたのであれば、そろそろ次のステップに移行してもいいかもしれない。立派な大人にすると言った手前、読み書き以外にもさせないといけないことはたくさんある。

読み、書きときたら、次は計算か。

「じゃあひらがなドリルはもう終わりでさァ。計算ドリルを始めやしょう。」
「おー!けーさん!」

みおの生活には、まだまだ覚えることが多いらしい。




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