07.はじめまして。


そもそも、なぜ幼女が屯所に住まうことになったかというと、事は数週間前に遡る。


「うわぁぁあぁぁああぁあぁぁ!!」

「なんでさァ土方さん。ついに体の一部がマヨ化したんですかィ。そりゃあおめでてェや。」
「ちげーよ!マヨ化すりゃ本望かも…じゃなくて!これ!」
「こいつァ…。」

屯所の門の前にぽつんと置かれたダンボール箱。その中には、これまたぽつんと体育座りをする幼女。首から文字の書かれたプレートを提げている。総悟はそれを手にとって読み上げた。

「『拾ってください。天人です。みお。』…なるほど、じゃ、俺はこの辺でしつれーしやす。」

くるりと踵を返して戻ろうとする総悟。

「いやいやいや!?捨て子もっかい捨てんの!?」
「じゃあ拾うんですかィ。どう見ても人にしか見えねェが、仮にも天人ですぜ?…まぁ近藤さんなら拾いかねねェが。」

柄にもなく慌てる土方。そこに騒ぎを聞きつけた近藤がやってきた。

「なんだなんだ、ふたりして。御用人でも来たのか?」
「いや、御用人っつーか、捨て子…?」

近藤は少女を視界に捉えると、一瞬驚いた様子だったが、すぐにかがんで笑いかけた。

「お嬢ちゃん、お腹は空いてないかい?」







少女が黙々と食べている間、先ほどの3人に山崎を加えた4人はプチ会議を開いていた。議題は、「この子どーすんのォ!?」である。途中参加の山崎がおずおずと手を挙げて意見を投じる。

「…普通に、どこかの施設に預ければよいのでは?」

その意見に、「いや、」と総悟。

「第一発見者が最も疑わしい。この事件の犯人は土方でさァ。隠し子発覚で副長の座は俺のものに、」
「今はそーゆーハナシじゃねぇだろ!第一、俺の子じゃねぇよ!なんで天人といかがわしいことしなきゃいけねーんだよ、似てねぇだろ!」

ひそひそ、ひそひそ、もぐもぐ、ひそひそ、もぐ…、

「「「「もぐ?」」」」

4人が声を揃えて振り向くと、ちょうどもぐもぐごっくんして食べ終わったばかりの少女が立っていた。

ややややべぇよ、今の話聞かれてたか!?
知りやせん、でも今のではっきりしやした。パパは土方でさァ!
ちげーよ!
まぁまぁふたりとも、とにかくこの子に今後どうしたいか聞けばいいんじゃないか?ほら、ちょうど山崎もいるし。
なんで俺なんですか!?え、ちょ、えぇ!

「…っというわけで、みおちゃん、だっけ。これからのことだけど。」

総悟、土方、近藤の重役に押し出された山崎は必死に少女に微笑みかけた。少女はぽかーんと山崎を見上げ、その言葉には反応することなく総悟に突進した。

「ってェ、なにすんだテメーコノヤロー。」
「うきゃぁー!!」

苛立った総悟の声は無視して超笑顔。超笑顔で叫ぶ少女。何度でも言おう。超笑顔なのである。

「おぉ!みおちゃんは総悟がいいのか!じゃあ好きなだけ一緒にいなさい!」
「は、いや、なんで?」

近藤の純粋な笑みに総悟は戸惑いを隠せない。視界の端では土方がざまぁみろと笑っていた。

「…土方のほうがいいですぜ?きっと。いいパパになってくれやす。」

ほいっ、と抱き上げて土方に投げた。少女は反射で土方にしがみついた。

「やーーーー!」
「うぐぉっ!?」

どすっ、と土方を壁にしてクイックターンをするように、少女は再び総悟に抱きついた。その顔はしかめ面で、鼻をつまんでいる。

「あァ、ニコチンマヨ臭がきついんですかィ、それは分かりやす。かわいそうに。」

にしても、お前いいキックだったなぁ、と総悟は少女を撫でた。案外悪い奴ではないのかもしれない。土方が横からうるさかったが、感謝してほしいものだ。どう見ても厄介な案件を請け負ってやったのだから。

これで当分仕事を急かされることはなくなるだろう。そのためになら少女の世話をしてやっても構わない。

みお、と呼ぶと「あぃ!」と返事が返ってきた。

こうして幼女は屯所に住むことになったのである。




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