voice of mind - by ルイランノキ


 切望維持2…『臭いのか臭くないのか』 ◆

 
アールはニッキと二人でルイがいる場所へと向かっていたが、ふと足を止めた。
 
「どうした?」
「……ごめんなさい、先に行っててもらってもいいですか?」
「あぁ、それはかまわんが」
 
テントーがいるであろう場所からどれだけ離れても臭い。蒸し暑いため、余計に気持ちが悪くなってくる。それでもアールは道を引き返した。
テントーが仕留められた場所に近づくと、気分の悪さに嘔吐している男が数人。それを見てアールもますます気持ち悪くなり、えずいた。
 
「すいません、銃持ってて髪の長い人見てませんか? 男性で」
「オエッ……向こうで死んでたぞ……ウプッ」
 
やっぱり、とアールはヴァイスを捜す。自分でもこれだけにおうのだ。鼻が利くヴァイスは地獄だろう。
暫く捜し回り、路地裏で壁に手を置いてうずくまっているヴァイスの姿を見つけた。
 
「大丈夫……? じゃないよね」
 と、鼻をつまんでいる鼻声のアールが歩み寄った。
「……想定外だ」
「だろうね」
 と、笑う。「誰かが先に攻撃したんでしょ?」
「あぁ……」
「動ける? 離れれば少しはましになるかも」
「いや……」
「…………」
 アールはヴァイスの背中をさすりながら、くすりと笑う。
「ごめん、ヴァイスのこんな姿見たのはじめてだからちょっと……笑ってしまうんだけど気分害さないで」
「…………」
「ごめんね」
「無理もない」
「あ、そうだ!」
 
アールはルイに電話を掛け、事情を説明した。そして、ゲート紙を使ってルイの元まで移動することにした。こんなことに使っていいものかと思ったが、ルイは文句ひとつ言わなかった。
ルイがいたのは街の裏口だった。異臭を放ったテントーがいたのは表口だ。ここまで来るとにおいは幾分かましだが、鼻が利くヴァイスはまだ気分が悪そうだった。
 
「ちょうど魔道具の修復が終わったところです」
 と、ルイはヴァイスに吐き気止めを差し出したが、ヴァイスは手の平を見せて断った。
「平気だ……」
「でしたら日陰に移動して涼みましょう」
 と、移動する。
 ヴァイスは建物の壁に寄りかかり、力なく座りこんだ。
「なんかこう、街全体をいい香りにする魔法を使える人はいないのかな」
 と、アールはもう鼻をつまんでいない。
「そういった魔法は用途が少ないので取得しようと思う人もいないでしょうね。街の結界は風などは通り抜けるので換気されるのを待つしかなさそうです」
「最悪だね……特にあの辺に住んでる人」
「しばらく洗濯物は干せないでしょうね」
 
ヴァイスの気分が少しでも良くなるまで休むことにしたアール達の元に、申し訳なさそうな顔をしたニッキがやって来た。
 
「ちょっといいか」
「どうかしましたか?」
「イズルの姿が見えないんだ」
「イズル?」
「以前話した、俺の友人の息子だ」
「あぁ、あの……」
 と、思い出す。「姿が無いとは、いつからですか」
「魔物が入ってきて一緒に行動していたんだが、途中で見失ってな。あいつは携帯電話を持っていないから連絡の取りようもない。自宅にはさっきから掛けているんだが、出る気配がないんだ」
「捜しましょうか」
「頼めるか? 悪いな。まぁなにかあったとは考えにくいが」
「アールさんはここでヴァイスさんと休んでいてください。少し捜してきますね」
 ルイとニッキはイズルを捜しに向かった。
 
「水飲む?」
 と、アールはヴァイスの隣に座る。
「あぁ……」
 アールはシキンチャク袋から水筒を取り出し、水をコップに入れて渡した。
「ちょっと不安になってきた」
「……?」
 ヴァイスは受け取った水を一気に飲み干した。
「私汗臭いときバレてるのかなって。ヴァイスに」
 と、アールは水を注ぎ足した。
「人間の汗のにおいはさほど異臭には感じない」
 と、水を飲む。
「さほどでしょ? さほど。……さほどってどのくらい?」
「…………」
「それほどってくらい? それでも人によるでしょ?」
「まぁな」
「今臭い気がする。テントーのにおいも染み付いて」
 と、アールは襟元を掴んでにおいを嗅いだ。「臭い気がする……」
 
──と、突然ヴァイスの顔が首元に近づき、ドキリとした。
 
「たいしたことはない」
 ヴァイスはそう言って、二杯目の水を飲み干した。
 
きょとんとしたアールはスーのように目をぱちくりとさせ、ぎこちなくコップを受け取った。
 

 
一方ルイは名前を呼びながらニッキの友人の息子、イズルを捜す。時折ニッキは知り合いに出くわす度にイズルを見なかったか?と訊いてみたが、有力な情報は得られなかった。
 
「イズルさんと逸れたときの状況を詳しく話していただけますか?」
 と、ルイ。
「一緒にテントーを捜していた。その途中でアールちゃんを見かけてな。ちょっと声を掛けてくると伝えたんだ。すぐ戻るともね。てっきりそこで待ってると思ったんだが、いないもんで」
「では逃げている最中とか、慌てているときに逸れたわけではないのですね」
「あぁ。多分、一人で捜しに行ったんだろう……勇み立っていたからなぁ」
「でしたらまだテントーのところにいるのかもしれませんよ。退治したテントーはどうされました?」
「わからん。誰かが外へ運んだんじゃないか? 仕留めたら外へ出すよう誰かが指示していた」
「手伝っている可能性もありますね」
「そうだな」
 
ニッキとルイは異臭が強い表口へ向かう。少しでも異臭から逃れようと周囲の家は窓を閉め切っていた。洗濯物を外に干していた家も、いつの間にか洗濯物が仕舞われており、魔物の心配は無くなったが外に出る者はいない。
 
「すみません」
 
テントーがいた場所にたどり着くと、デッキブラシを持って家の壁面を磨いているお爺さんがいた。声を掛けるとマスクをした顔を向け、手を止めた。
 
「なんや」
「テントーはどうされました?」
「男共が外まで運んで行ったさ」
 と、掃除を再開する。「テントーの汁が飛んでね。困ったもんだよ」
「イズルさんをご存知ですか?」
「イズル? 知らんね」
「写真でもありゃな」
 と、ニッキ。「外を見てみるか……」
「お供します」
 

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