voice of mind - by ルイランノキ


 一体分身2…『進展』

 
朝食を済ませたあと、アールはルイに電話を掛けた。呼び出し音が鳴るばかりで出る気配がなかったため、仕方なくメールを打った。
 
【ルイ、お誕生日おめでとう!! 調子はどうですか? 1日でも早く元気になるように今日も祈りながら旅をするね】
 
本当は直接言いたかったけれど、ルイからの連絡は相変わらず途絶えていた。カイもルイに誕生日を祝うメッセージを送った。プレゼントを用意することは内緒にしている。
 
ハヤテ町に向かっている一行。ルイと連絡が取れない不安を胸に抱きながら、道を塞ぐ魔物との戦闘を繰り返し、売れそうな部位を手に入れながら歩みを進める。
 
「まだぁ?」
 カイが面倒くさそうに言った。
 
その足取りも重い。それもそのはず、1時間ほど前に現れた吸血コウモリに体力を奪われたのだ。この辺りに出現する吸血コウモリは攻撃力はおろかスピードが増しており、戦闘を請け負ったカイのブーメラン攻撃を幾度となく交わした。見兼ねたシドが手を貸そうとしたが、カイにもプライドがある。結局仕留めるまでに30分も掛かった。
 
「もうすぐ着くよ」
 と、アール。
「さっきから言ってるけどアール道わかんないじゃん。距離感わかんないじゃーん」
「しょうがないじゃん。シド不機嫌だしヴァイスは無言だし答える人が私しかいないんだから」
「なんで不機嫌なんだろー?」
「カイがたった1匹のコウモリに手こずったからでしょ? シドに任せれば早かったのに」
 戦闘を大股で歩いているシド。その背中から苛立ちが伝わってくる。
「ルイならそんな冷たいこと言わなーい……」
「…………」
「ルイならもっと優しく言ってくれる。ひとりでがんばったことは褒めてくれる!」
「あーもうイライラする!」
「なんで!」
 
アールがカイに言い返そうとしたところで、アールの携帯電話が鳴った。やっとルイから連絡が来たのかと期待したが、開いた画面の表示されていたのは《クレオファス》という名前だった。
 
「クレオファス? ……クレオファス?」
 と、思わず足を止める。
「誰それー?」
 カイも足を止め、横から覗き込んだ。
「忘れた」
 名前を登録してあるくらいだから知り合いなのだろう。
「もしもし?」
 
アールが電話に出ると、シドが一度振り返って舌打ちをした。シドは足を止めずにスタスタと歩いて行く。仕方なくアールたちも立ち止まらずに歩き出した。
 
『お、久しぶりだな、覚えてるか?』
「すいません、クレオファスさんですよね? 携帯電話に番号を登録していたんですけど……」
『以前パウゼ町で会った絵描きだよ』
「あぁ!」
 言われて思い出す。「すいません……」
『いいって。遅くなって悪かったな』
「なにかわかったんですか?」
『あぁ、一応。君から貰った似顔絵のコピーを、俺の知り合いの絵描きに見せてみたんだよ。サインを見てもピンと来るやつはいなかったから半ば諦めて連絡できずにいたんだが、昨日その絵を見せた絵描きの一人から連絡があって、たまたま同じサインが書かれている絵が売られている店を見つけたんだと』
「どこのお店ですか?」
『ブラオっていう街の……』
 メモを見ながら話しているのか、カサカサと紙の音がした。『アベーテっていう店だ』
「ブラオ!」
 水の都と呼ばれている街だ。思い出は沢山ある。真っ先に思い出すのはルフ鳥に襲われたことだ。
『んで、行ってみたんだよ。そこに』
「え? クレオ……ファスさんが?」
 危うくクレオパトラさんと言いそうになる。
『クレオでいいよ。俺もちょっとそこに用があったからついでにね。そしたらその店は駆け出しや売れない画家の絵を取り扱ってる専門店で、なかなか面白い絵が多く飾られていた。もちろんどれも売りもんだ。例のサインが描かれている絵を見つけたんだが、画風がまったく違った』
「え……それって描いた人が違うってことですか?」
『いや、そこまではわからない。君が持っていたのは似顔絵だろう? 絵の練習がてら普段は描かないデッサン……人物画を描いて金稼ぎしていた可能性もある。それでその店のオーナーに話を聞いてみたら、ゾマー・リュバーフという男が持ってきた絵らしいことがわかった』
「ゾマー・リュバーフ……」
 アールはカイを見ながらペンで字を書くジェスチャーをした。
 
カイは自分のシキンチャク袋からお絵描き用のノートとペンを取り出し、その名前を書きとめた。アールに見せ、アールから“ありがとうの笑顔”を貰う。
一番後ろを歩いているヴァイスは上空と背後を気にかけていた。アールが電話中だ。魔物が現れたらすぐに対応できるようにである。その肩に乗っているスーも、周囲を警戒している。
 
『そいつが言うには、自分の父親が描いた絵で、父親に頼まれて絵を販売出来る場所を探していたらしい』
「彼の連絡先とかわかりませんか」
『それが個人情報だからと教えてもらえなかったんだ。この絵が気に入ったから弟子にしてもらいたいって嘘までついたんだが』
「あはは……、そんなことまでしていただいて、ありがとうございます」
『でも住んでる町は教えてもらえたよ。ハヤテ町ってところにいるらしい』
「ハヤテ?!」
 
こんな偶然があるのだろうか。神様に誘導してもらっているような気がしてくる。
 
『どうかしたのか?』
「これから向かう町です。ていうか、もうすぐ着きます」
『そりゃまたいいタイミングだな。町を出た後じゃなくてよかったよ』
 と、クレオは笑う。
「ありがとうございます。捜してみます」
『あぁ、少しはお役に立てたかな』
「少しどころか! 感謝します」
 
アールはクレオとの電話を切ると、仲間に話の流れを簡略に説明した。
 
「手当たり次第この人を捜すしかないよねぇ」
 と、カイは《ゾマー・リュバーフ》と書いたページを破ってアールに手渡した。
「でもフルネームがわかってるなら案外早く見つかるかも」
「まぁよくある名前ってわけでもないしねぇ。アールって人の名前覚えないよねぇ。名前だけじゃないけど」
「外国人の名前は覚えにくいの。横文字カタカナ」
「外国人?」
 
カイがメモを取ってくれた紙をシキンチャク袋にしまうと、前を歩いていたシドが振り返って言った。
 
「町が見えたぞ」
 

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©Kamikawa
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