ハコネシア峠



シルヴァラント編


『カカオさんのこと、ありがとうございました』


ロイド一向に深く頭を下げた。
迷いがあった自分よりも早く動いてくれたこと。この町を救おうとしてくれたこと。
決してすぐ出来ることじゃない、今後厄介なのに目をつけられる可能性だってあるかもしれないのに救ってくれたことに感謝した。
カカオは自分がこの町に来てから世話を焼いてくれた数少ない一人だから。


「何言ってんだよ。一番早く動いたのはソウマだろ?」

『石投げただけだし何言ってるの、俺はずっと尻尾巻いて震えてただけに過ぎないんだ。
最初に抵抗できたのだって、自分よりも小さい子だった……。

実際怖かったし中途半端だしとても曖昧な覚悟だった。
ロイド君たちがいなきゃ、さらに最悪な結果になってたかもしれない……。
だから、ロイド君たちの意思に俺は感謝したいんだ』

「そっか、なら俺からも礼を言うよ。
一緒に戦ってくれてありがとうな!ソウマ強かったぜ!」

「そうそうソウマ凄かったよ!技も上手く使いこなしててさ!」

「うん、凄く頑張ってたよね!」


三人に褒められ、なんだかものすごくこそばゆい感じがして頭を掻いた。
そこまで褒められる程でもないんだけれど……まぁありがたく受け取っておこう。

それにリフィルの魔術やジーニアスの援護がなければあそこで死んでたかもしれない。
こちらを信用してくれた証だろうか、少しこそばゆい。

なんだか一行のそばにずっといてもなんだし、設置された処刑台を片付けるために自分も手伝いに行こうとすると
さっきからなにかをずっと思考しているリフィルに呼び止められた。


「……あなた、ハーフエルフのこと差別しないのね」

『へ?……まあ、北の方にちょっとした知り合いの奴がいるんで。
実際見たのはそいつがはじめてで、見た目もあまり変わんないだなというのが感想で……。
ただ魔法も扱える両方の種族のハイブリッドな人間なんだなぁと思えば差別しようなんて思わないですよ』

「は、ハイブリッドって……」

『だって好奇心旺盛なヒトの血があってマナを扱えるエルフの血があるってだけで、考えとかこちらと同じなんだなぁって。
人間も好戦的なところがあるんで、それ故に変な差別意識が生まれたのかな……と』


だって魔法使えるなんて最強じゃん。
無駄な制約もなくて自由にマナを使って火を起こせたり何もないところから水を出したり出来る。
それってとても素敵なことだと思う。
魔法とかロマンだよね、ロマン。

それにハーフエルフも元を辿るとエルフとはいえヒトの進化の過程で出来た新種の様なものだろう。
ヒトだって何百種と進化し続けた結果、自分たちがこうして生きているんだからある意味奇跡に近いことなんじゃないかと思う。
そしてこの世界はマナという不思議な元素がある。
人間というどんな環境にも強く生き抜ける知恵と力と好奇心を持った種族と、更に元素を自由に扱える特殊な種族を掛け合わせた存在がハーフエルフとなるとハイブリッドと言わずしてなんと言う?ってのが持論だったりする。
ちなみに今考えた。

自分をここへ飛ばした犯人は恐らくエルフとか凄い魔法を使える精霊か何かに違いない。

まぁこの姿に変えるくらいなら、魔法を扱えるようにもして欲しかったのが本音かな。
やっぱり憧れじゃん、呪文を唱えて魔法を発動させるって。
中二病なんて馬鹿にされない世界でやれるならやりたいものだ。


「……つ、つまりハーフエルフに差別心は抱いてないのね?」

『はい、全く。敵になると厄介かなとかおもいますけど、味方なら心強いですよね』

「……なんかソウマって変な人間だね」

『え?そ、そんなに言われること言っちゃった……?』

「いや、そうじゃなくって良い意味で言ったんだよ」

「……そうね、この世界の人々が皆、ソウマやロイドのような考えを持っていると良いのだけれど」


ああ、そうか。
先日ダイクの話からロイドはドワーフに育てられた変わり種だし、この姉弟はエルフなんだっけか。
魔術扱えるし、同じ血を持ったハーフエルフの人たちの身を案じている、ということだ。

確かにハーフエルフ差別が強い世の中だけど、
嫌われ、蔑まられる側の心の痛みを知っているからあまり嫌いにはなれない。
もちろんディザイアンはこっち見たらいきなり襲ってくるから嫌いだし恐怖の一つではあるけれど、今のハーフエルフを差別視してるご時世じゃ増える一方だろう。

それにディザイアンの構成はほとんどがハーフエルフだなんてのは、差別され、隠れて暮らしてるハーフエルフたちにとって目の上のたんこぶだ。
これはゲームで得た知識なので秘密だが、この世界の人々はディザイアンにどんな種族が集まっているのかなんとなくでも分かっていそうな感じもする。

あのドレッド頭も耳とんがってたし。
ディザイアンのなかには共感したのか保身の為か人間もいるようだけれど、結局見た目ヒトで中身がハーフエルフかどうかなんてこちらからしたら魔術でも使ってくれなきゃ分からない。


『あ、そういえば古文書は貰った?』

「それがワインの連中が神子の名を騙って持ってっちゃったんだ!」

『うわ……やりやがったなあいつら。
売る目的なら一番行きそうなのは近くの丘のお爺さんの所だけれど……』

「ソウマ案内してあげたら?旅業案内で道は分かってるでしょ?」

『へ』

「ソウマ、案内してくれないか?」

『え?わ、お、俺?別に構わないけれど……』


ショコラの言葉に乗せてロイドが頼んでくるとは思わずわたしと言いかけた……危ねえ……。

いや、案内するのは別に構わない、しかし恐らく義勇軍はしばらくは帰って来ないかもしれないからパルマコスタが報復を受けないか心配である。

保護者組はどうだろうか。
決定権は神子にある筈なのに自然と二人を見てしまうのはやはり彼らにとって保護者みたいなものだからだろう。
二人に視線を向けるとしょうがないといった表情をしたリフィルと相変わらず無表情のクラトスだった。


「案内、お願い出来るかしら」

「よっしゃ!ソウマあとで手合わせしような!」

「ロイド、気が早すぎるよ……」

「ソウマ、改めてよろしくね」


なんだか、なかなかに個性的なパーティだな……。
よろしくと頭を下げたが、果たして自分なんかがパーティインしても……。
いや、ずっとではないし……少しだけならいいか。



* * *



ロイド一行の案内役として近くの丘、というか峠だけど。検問所があるハコネシア峠へと向かった。
会ったことのないロイド一行は知らないだろう、あの老人はちょっと面倒臭い性格をしてる。
後で嫌というほどそれを見るだろうし説明も面倒なので言わないでおこう……。
説明が面倒臭いということの割り合いのほうが大きいのも内緒だ。


「それにしてもソウマってもしかして強い?」

『そんな、俺めちゃくちゃ弱いよ』

「そうかなぁ?
もしかしたらロイドより強いんじゃない?」

「む、そんなのやってみないと分からないだろ」

『手合わせはするならもっと後でな、後』


しかしやるとは言ってない。
なんだか手合わせしろとうるさくロイドに思わずチョップで叩いてしまったがしょうがないと思う。
何を確かめたいのか……二、三言目にはだいたい手合わせというワードが出てきたし。
見た目同年代で同じ剣士というのが嬉しいんだろう、分からないこともないけど。


「ロイドは我流だけどソウマは?」

『俺は人から教わったからなぁ。どこの流派なのかは分からないや』

「あ、確かさっき会いに行くって言ってた人?」

『うーん、たしかにその人からも教わってだけど違うかな』


コレットの言葉に首を振る。
脳裏に思い浮かぶ同じ黒髪の人。
なんの因果か分からないが、自分を拾ってくれた命の恩人、恩師。


『義勇軍の隊長、縁あって教えて貰ってた』

「すごっ!隊長っていうから凄い強いんだ!」

『うん、あの人に教えて貰えたから外に出れた。もしかしたら今ごろ骨だったかもね。
……本当に運が良かったって思うよ』

「でもソウマが強いのはソウマ自身の力でしょう?自分を卑下しすぎだわ」

『そう……かな……』

「そうだぜ!よし、絶対負けねえからな!」

「ロイドって無駄に元気だよねー……」


拳を握って高らかに叫ぶロイドにジーニアスが冷やかすと言い合いが始まった。
喧嘩するほど仲が良いというか……ちょっと違うか。ジーニアス余裕の表情でロイドを言い負かそうとしてるし、喧嘩というよりもじゃれ合いみたいな……言ったら怒られそう。
止めよう。

仲が良いんだなと思いながらそのじゃれ合いを眺めながらも歩きは止まらない。
ここらは魔物が多いから早くてっぺんまで歩いて行ってしまった方が良いのだ。
しばらく歩いていると不意に隣から声が掛かった。


「ソウマ」

『あ、はい』

「その隊長の名はなんという?」


その問いに少し躊躇う。一部を除いてあまり他人に関心ごとを示さなそうな彼から質問が来るとは思わなかった。
たしかに手首を治してくれた。
けれど、あまりこちらから関わらないでおこうと思っていたのだ、今後の彼の行ない的に信じきれないのも事実だ。
しかし答えられないというのも不自然だろう。


『レナウン。レナウン・ハーベイですが……』

「……いや、お前の抜刀する際の剣の持ち方、癖が知り合いと似ていた。
……それだけだ」

『えと……まぁ、所作から出来るだけ真似ておこうって思ってその、……隊長流に……』

「……それと」

『はい』

「あまり自分を過小評価するな、パルマコスタでの投擲は見事なものだった。危うい所もあるが剣を扱うには十分な技術を持っている、それを伸ばせるかは己次第だ。
鍛錬を欠かすな」

『え、あ、は……はい!ありがとうございます!』

「それと敬語も敬称も別に構わない。話しやすい言葉で話すといい」

『……、分かった。ありがとうございますクラトスさん』

「……」

『あ』

「……フッ」

『!』


今、笑った!?
あの寡黙なクラトスさんが!

ロイドみたいに明るい笑い方でもないけれども確かに口角が上がってた。

今までで見たことがないようなすごく綺麗な笑みで暫く固まってしまった。
それこそテレビで見る俳優の笑顔なんて霞むくらいの。落ち着いた大人の微笑み。
見惚れるってこういうことを言うのか……。

イケメンの笑顔って……。
あれ、なんだか顔が熱い。

多少なりとも自分の剣技を褒めてくれたから?
確かに誰かに褒められるのはとても久しぶりだし……。
自分よりも何倍も戦いに長けたクラトスに認められた気がして嬉しいし……。

まあ拙い敬語にちょっと呆られた感じは否めないけれど……。
礼儀のいい大人相手に敬語無しだと違和感が先に来る。
そうすることが礼儀だと元の世界で教わってきたから。
けれど本人が良いというならば、普通に話せるように努力せねば。


あれ。
そういえば、もう大人組には警戒されてないってことだよね。普通にロイドたちの近くにいたりしても咎めた表情をしなくなった。
リフィルの言動も最初よりはたしかに優しいものに変わってるし、ハーフエルフはハイブリッドのというはたから聞いたらおかしいらしい話をした後からだいぶラフに接してくれるようになった。
クラトスの無言の視線もキツくないのだ。

少し、いやかなり心が踊った。
少しは信頼されるに値したのだろう。
何によってかはともかく、安堵と喜びが駆け巡った。

こんな自分でも少しはこの世界にいてもいいんだと少しずつ思えるから。


ーーーーー


スキット「慣れない」


『あ、あのクラトスさん……やっぱりこのままでいいですか……敬語なしなのはちょっと……慣れが……』

「ソウマの好きで構わない」

『すみません……目上の人には敬語をって刷り込まれてて……すみません』

「謝ることはない、こちらこそ無理を言ったな。好きに話すといい」

「……なんかクラトスってソウマに甘いよなぁ」

「そりゃロイドは最初っからクラトスに突っかかってたしねー」

「うるせーやい」


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